新日本プロレス Wrestle Kingdom 15 In Tokyo Dome 1/4/2021

#1コンテンダー・マッチ(IWGP Jr.ヘビー級王座)
高橋ヒロム対エル・ファンタズモ

ヒロムの奇襲でスタートし、ビッグダイブ連発で景気良い幕開け。その後はヒロムが試合後につまらないと吐き捨てた要因となるファンタズモのヒールプレイ&物真似祭り。ケニー・オメガ、クリス・ジェリコはもちろんのこと、ピーティ・ウィリアムスのコーナー逆さ吊りの相手への股間踏みつけや同郷の盟友でありライバルのアルテミス・スペンサーの得意技である、ロープに寝ている相手へのセントーンとカナダ人レスラー祭りとなっているのは細かい。ギアもエッジオマージュ。この様な調子なのでその比重は高く、そしてただでさえリアクションが薄い日本マット+コロナで歓声が出せない+大会場という中でこれを持ってくるのは一長一短ではあるものの、翌日に王座戦を控えるヒロムの負担軽減にはかなり貢献している。更に終盤では大技や切り返し合いで見せ場は作っており、ヒールプレイの回収は出来ている。ファンタズモのヒールプレイのわかる人にしかわからない点は難点だが、ストレートな名勝負は翌日ヒロムと石森がやってくれる上、そもそも勝ち負けが十中八九見えているカードで面白みを持たせてくれたのだから問題はない。ヒロムもつまらないといいつつも、ちゃんと付き合っていたのはツンデレだなと思う。
好勝負に届かない良試合。
評価:***3/4

IWGPタッグ王座戦
デンジャラス・テッカーズ(c)(タイチ&ザック・セイバーJr.)(w/DOUKI)対ゲリラズ・オブ・デスティニー(タマ・トンガ&タンガ・ロア)(w/邪道)

ヒール対ヒールが結果的にニュートラルな立ち位置同士の真っ向勝負になるのはプロレスあるある。その背景を活かした乱戦ベース+細かなタッチワークの攻防は実に質が高い。GODはタイトル歴だけから言えば確実に名タッグである。実際連携は素早くそつなくこなす。合体技も多彩である。だが良くも悪くも荒さが魅力の選手同士のタッグなのは見落とされがち。しかし今回試合全体のコントロールを請け負ってくれるDTが相手なので、未だかつてないほど気持ちよく試合が出来ている。そのDTは貢献度がかなり高く、GODの荒々しさに合わせて剛柔切り替えながら対峙。タイチ、ザック共にシングルでも一流の選手同士のタッグなので、どの局面でも確実な仕事を行える。類似ベビーフェイスの立ち位置も全く問題なくこなしていた。むしろこの2人のベビーフェイスも見たくなる位完璧な立ち振る舞い。そのDTのコントロールのおかげもあり、勢いは最後まで衰えず、GODの迫力押しも効果が最大化されていた。ここまでやり抜けば、フィニッシュの凶器使用も印象的になる。GODといえばROHのブリスコ兄弟との連戦がキャリアベストの活躍であったが、それに限りなく近いレベルの一戦となった。好勝負。
評価:****

IWGP USヘビー級王座挑戦権利証争奪戦
KENTA(c)対小島聡(w/天山広吉)

試合前にモクスリーのプロモ。この試合の勝者は覚悟しておけよという内容。こうなると恐らくアメリカでやる方が、実現の可能性が高いので、勝敗が見え過ぎてしまうのが惜しい。
試合は、良くも悪くもミッドカードらしい内容。KENTAのビッグマッチ仕様ヒールプレイを中心に構築。小島はまだまだやれると思うが、TVプロレス的な試合に落とすのはそもそも難しい。最後も唐突にフィニッシュ。来たるモクスリー戦向けにKENTAの完勝。平均より上。
評価:***

棚橋弘至対グレート-O-カーン
アマレス的な動きも織り交ぜ、花道へのスラムも活用し腰攻め。シューター型ドミネイターである自らのスタイルを提示出来ていたオーカーン。エルボー合戦等付き合わなくても良いシーンはあったものの、関節技や必殺技のアイアンクロースラムに繋げる攻防まで意図が見えるファイトが出来ていた。以前のオカダ戦と比べると見違える働き。後はやっぱり身体を大きくしたい所。棚橋は安定重視の働きだったが、特に前半はオーカーンに委ねていたので、その分オーカーンの成長を見る事が出来たといっても良いだろう。セミとメインが死力を尽くしたロングマッチになる事を顧みるとこれ位のサイズで正解。只オーカーンの今後を考えると、クリーンフォールよりも丸め込みで勝つ位に留めてあげたかったけれども、団体の象徴にそれをやらせる程の信頼はまだないという事だろう。中々良い試合。
評価:***1/2

オカダ・カズチカ対ウィル・オスプレイ(w/ビー・プレストリー)
 

35分超えのアスリート性に富んだハードな名勝負!フロー感もあり、攻防もより激しく見えるように微調整を加え、オスプレイは飛び技を抑えつつも、立体的な動きは残し、オカダは必殺マネークリップに繋げる攻防は的確。遺恨戦を意識した踏み付けや挑発、更にテーブル葬まであって、最後は待ってましたのレインメーカー解禁!充実の内容で天晴れ。完全無欠!と言う意見が恐らく主流となるだろうが、納得出来ない部分はある。
この様な素晴らしい試合をBest in the worldの2人が、簡単に出来る事位は理解している。しかし、この2人の世界最高の実力があって、裏切りからのヒールターンというストーリーまであるのに、何故単なる素晴らしい試合で抑えてしまったのかが疑問。序盤のファストペースは良いものの、ロックアップからのエルボー合戦を行ったり、簡単にオカダがトペコンをしたりと間違いではないものの、これは裏切り者に対する「落とし前」を付けさせる為の決闘。煽りVでも明確にそう謳っていた。兄弟とまで評していた人間が掌を返し裏切った、その復讐行為が単に良い試合をして勝つ事なら、別にそんな裏切りストーリーなど不必要だった。相手を潰して仕留めてこそ「制裁」であるはず。選手・団体のスタイルやカラーを考えると、やれる事の上限はあるとはいえ、オカダは飄々とせず憎しみを少しでもスタートから出すべきで、そしてオスプレイはベビーフェイスのままのファイトをせず、せっかくビーが付いているのだから、もっと活用してヒールという立ち位置を明確にすべきだった。オスプレイのヒールが素晴らしい事はPROGRESSやWCPW時代に証明済。小悪党も狂乱ヒールも何だって出来る。そのヒール要素を少し加えるだけでこの試合の様相が変わり、終盤の死闘モードもより生きて来る。それを上手く組み込んでエピックマッチに仕上げたのが、ジェリコ対ケニーの一戦。テーブルスポットも掴みとして序盤に放った方が、この2人がという意表も突けて、インパクトは大きかったはず。遺恨精算ストーリーが無く、単にオカダ越えを狙うオスプレイの挑戦というテーマであれば、別にこの内容で良く、名勝負確定だった。でもその遺恨精算戦という最大のテーマがある以上、この内容では好勝負とする事は出来ない。オカダを叩きのめし、エンパイアというユニットが単なる寄せ集めでない事を証明し、BCを喰っていく位の存在になる事を示す千載一遇のチャンスだった。
別にWWEみたいにすべきとは思わない。新日本のスタイルも確立されていて、それでいけば良い。素晴らしい試合なのは揺るぎない。
しかし、あべみほもピーターも来られない中、ビーを連れて来る事が出来る位のアイデアとそれを通せる権力があるのだから、カリスマヒール、ウィル・オスプレイとジ・エンパイアここに在りという試合にして欲しかった。爽やかに年間ベストを狙うだけでは現状維持に過ぎず、メジャー団体のトップ選手ならやはりムーブメントを創って欲しい。既にそのフェーズにいるべきなのだが、今回もそれが叶わなかったのが悔やまれる。好勝負に届かない良試合。
評価:***3/4

IWGPヘビー級&IWGP ICダブル選手権試合
内藤哲也(c)対飯伏幸太

前の試合と打って変わって遺恨がないからこそ成功したのがこの試合。このカードが名勝負数え歌であるのは周知の事実。そのまま等身大の内容でやり抜き、過激化し過ぎる所を本人達のバランス感覚と明日も王座戦を控えているという意識が、狂い過ぎない様に抑えていたのが功を奏した。花道でのジャーマンに断崖式ハリケーン・ラナ、数々の垂直落下技を投入し、互いのハードさを競い合う展開だが、内藤は攻めでは、プルマ・ブランカ等を投入し、受けではダウンと性急な切り返しを使い分け、緩急を積極的に出す形で調整していたのが印象的。飯伏も無理にキラー・モードを使わなくても良く、かなりやりやすくなった。スタイル的には感じにくいが、円熟味を増しているといっても良いだろう。クレイジーな時と丁寧にやる時のバランスが絶妙。終盤は得意技必殺技の応酬。カミゴェ自体は大盤振る舞いだが、それ以外は程良く配置していて、エグみが少なく旨みだけ残っていた。悲願の王座奪取という待望の瞬間が待ち受けていたのもこの試合の特別感を増している。このカードならこれ位やるのは分かっていて、想像を超える試合ではないものの、プラスを求めすぎてマイナスになってしまうというこの試合の最大の欠点が改善されていた事を加味してこの評価とした。ドーム大会に相応しく、両者のベストワークが光る素晴らしいメインイベント。この試合によって2日目が相当楽になる。文句無しに名勝負。
評価:****3/4

全体評価:9.5