PRO WRESTLING NOAH 20th ANNIVERSARY NOAH the CHRONICLE vol.4 横浜武道館大会 11/22/2020
GHCヘビー級選手権試合
潮崎豪(c)対中嶋勝彦

冒頭は雰囲気を作りつつ様子見。まず試合が動いたのは6分経過過ぎ、潮崎が危険な断崖式スープレックスを見舞えば、中嶋も迎撃式のキックで返す。序盤なのでダメージ値がフラットとはいえ、これから死力を尽くしていく戦いに移行する中で、断崖式を少し軽く見せ過ぎた印象。潮崎なら別に断崖式ではなくても、格式を作る様なムーブは出せた。そこからは潮崎の試合ではお馴染みの腕を攻められる展開。これ自体はありがちではあるが、中嶋が得意の鋭い蹴りは勿論の事、立ち振る舞いで空気感を出せるので、土台作りには困らない。前半はロングマッチを見据えて、腕攻めで激しさを抑えつつ一定のリズムで攻防を刻んでいく。潮崎がラリアットを見舞った所で前半終了。
後半の幕開けは待ってましたの打撃合戦。ここは業界最強の打撃を持つ両者なので、理屈はいらない。凄いという言葉しかない。これを観たいので当然大満足だが、結局腕攻めのダメージは薄れていく。仕方のない事ではあるが、腕攻めの必要性のなさは感じてしまう。潮崎はダメージ表現が上手いのでやれてしまうが、最終的にチョップとラリアットで押す事になる中で、無理に腕攻めにしなくても良かったのかなと。一つ一つの攻防の厚みは究極に凄いけれど、40分超えのロングマッチにする必要性は、話題作り以外に感じられず、無理に伸ばしている所も見られる。後10分減らしても全く問題がないと感じる上、この2人の破壊力ならそちらの方が価値は上がるだろう。2020年の絶好調の2人ならもっと濃密な完成形を作り出せたかなと感じるものの、頂上決戦に相応しい苛烈な肉弾戦。このカードに求めるものは最高レベルで備わっていて、円熟味を増した試合作りも見事。後半の20分で前半の20分が飛んでしまうほどの凄さがあるので、年間ベストに推したくなる気持ちは理解出来る。文句無しに好勝負。
評価:****1/4

PRO WRESTLING NOAH NOAH the BEST ~FINAL CHRONICLE 2020~ 国立代々木競技場第2体育館大会 12/6/2020
GHCヘビー級選手権試合
潮崎豪(c)対杉浦貴

激闘となった中嶋戦のたった2週間後に、杉浦との一戦に挑むという険しい防衛ロードを歩む潮崎。この試合では裏切りからの決着戦的な要素はなく、純粋に高みを目指し潰し合う戦いなので、色んな意味でフラットな舞台である。
それが活きているのか、冒頭10分から上々の出来。激し過ぎる打撃合戦は勿論の事、上手くグラウンドに繋ぎ、攻防を切るタイミングが良いので、バランス良く試合が進んでいく。中嶋に比べると杉浦の方が、グラウンドを試合に織り交ぜる上手さがあり、フィニッシュにも結びつける事も出来る。それがロングマッチにおける構築にとっては最適だった。スロー過ぎる事もなく、激しさに振り過ぎない様な試合作りは、10分以降も進み、定番の腕攻めを絡める展開になっても、ペースを守り、上手く時間を使いながら停滞させずに進める。器用でダメージ表現が上手いけれども、最後は超人プロレスで押していくスーパー・ハードヒッターである潮崎の事を、良く理解した上での選択でもあり、円熟味溢れる杉浦の試合運びは見事。時間稼ぎと取られてもおかしくない攻防やダウンのシーンも多いけれども、パワフルな立ち振る舞いと鋭角な技によりそれを感じさせない巧みさもある。30分経過時点でも杉浦の優勢が続くものの、それは潮崎がボロボロになっても、確実に形勢逆転が出来る力があるからこその異形の愛。それを自然に表現出来る高みに到達している。35分過ぎからは、更なる消耗戦となり、死闘モードへ突入。打撃の応酬にラリアット、必殺技も投入。その中でも打つ場所を変えたり、ラリアットも温存していた右腕で放ったたりとバリエーションを変えて放つ事により既視感を与えない。更に絶妙なタイミングでのフロントネックロック炸裂により、もうこの試合が名勝負級であることは確定。後はウイニングランともいえる状況だったが、そこでも打撃の応酬で強引に持っていった後、力尽きる形でのフィニッシュ。綺麗にまとめるのではなく、精魂尽きた形にしたのもセンス満点。いくらでも過激に出来て、いくらでもオマージュ祭りにも出来る。それでもそれを選ばずに、エメラルドフロウジョンも出す事もなく、己の力でやり遂げた50分超の大激闘。ノアの20年の総決算ではあるが、そこに焼き増しではなく、進化した姿を示した最高傑作を用意したのは本当に素晴らしい。杉浦は、50歳でこのマスターピースを作り上げたのは驚異的。MOTY最有力候補の呼び声も高かったが、それも頷ける試合です。5スターマッチ。
評価:*****