GCW Josh Barnett's Bloodsport 3 10/11/2020
決まり手はノックアウト、ギブアップのみで、環境はノーロープのシュートスタイルがコンセプトの大会です。
まず実況のレニー・レオナード(EVOLVEの実況の人)が聞きやすさ、知識量、熱量全て素晴らしい。

女子トーナメント準決勝
キラー・ケリー対アリシン・ケイ

ポテンシャルの割にいまいち爆発し切れない未完の大器ケリーを、キャリアや実力に勝るケイが上手く導いていき、ケリーの潜在能力をこじ開けに行く展開。ケリーも攻められた足をスイッチする、痛みで果敢に攻め込めない等とMMAらしさを出すのは良いが、もう少し攻撃時に鋭さが欲しい。ケイのようなプロレスも上手くてシュートスタイルが出来る選手とやれたのは良い経験だろう。NXT UKやUKインディーにそもそもそういう選手がいない上、いてもWXWの猛者ばかりという環境だったので。流れる様な攻防を期待しがちで、実際スキルがあればそれは可能だが、逆に上手く攻め込めない、攻めても膠着状態になる。メインを除けばこの試合だけ10分超えなので、他とテイストを変えてビターさも残したシュートスタイルは、それはそれで有。打撃の打ち合いや関節技の応酬を経て、最後ケイが見事な流れで、ケリーを仕留めたので良い印象で締める事が出来たのも良い。結局決勝で負けたケイではあるが、トーナメントの中でベテランの巧さを確実に示した。
平均的良試合。
評価:***1/4

カルヴィン・タンクマン対アレキサンダー・ジェームズ
ある意味この日一番のサプライズはこの試合。成長著しい新人王候補の一人でもある新鋭タンクマンが、まさかグラウンドにも対応出来るとはという驚きの内容。当然ドリュー・グラック門下生で、WXWのレギュラーとなりスクールのトレーナーにまで上り詰めたジェームズが、見事なテクニックを見せて土台を作っていたのは見逃せない。それでも実力者ジェームズに、怪物性を抑え目にしながら、シュートスタイルで挑んだのは驚愕の一言。末恐ろしい若き怪物の可能性は止まる事を知らない。説得力十分のフィニッシュは、今大会唯一の打撃でのKO。ジェームズの実力も見る事が出来たが、やはりカルヴィン・タンクマンの底知れない潜在能力に惹かれてしまう試合となった。中々良い試合。
評価:***1/2

ホミサイド対”フィルシー”トム・ロウラー
元UFCファイターのロウラー。普段はヒールファイトやハードコアも厭わず、シュートスタイルに拘らないプロレスらしいプロレスをする選手だが、今回は素早く力強いグラウンドテクニックで、アマレス大学王者、ブラジリアン柔術黒帯の実力を示す。いつもよりもキレキレであり、かなり仕上げてきている。対するホミサイドは、衰えは隠せないのはいつものことだが、それでもホミサイドらしさ全開の喧嘩殺法は健在。MMAとか小賢しい、ブルックリンのストリート・スタイルや!と言わんばかりのファイト。STFやコップ・キラーまで狙い、ここまで振り切っていると楽しくなる。どこでも禁じ手になりそうな顔面踏みつけ連発を耐え切ったロウラーがお返しの締め技で激勝。ホミサイドにしか出来ない内容で満足。平均的良試合。
評価:***1/4

ジョン・モクスリー対クリス・ディッキンソン
拳を交わす2人の狂犬。紆余曲折はありつつも、腕一本でのし上がってきた両者。2009〜2011年辺りのUS東海岸インディーファンにとってはかけがえのないカード。インディーで身を削りながら頭角を現し、片やスター街道を突き進むも、同時に犠牲を払い、コーポレート・スーパースターかプロフェッショナル・レスラーかの瀬戸際で迷い続け、困難を耐え抜き、地位を捨て、新世界の旗手として歩むモクスリー。そして一方では、キャリアを諦めかけても何とか続けていき、 GCWやBeyondという新時代のインディー団体で花開き、一時はWWEへの扉も開かれたが、それを拒みインディーや念願の日本マット等で理想郷を探し続けるディッキンソン。共通項はあるものの、全く異なる道を歩んできた両者が、CZWの系譜を継ぐ GCW主催の、互いのスタイルでもあるシュートスタイルの大会である『Bloodsport』というオンリーワンの舞台で実現。CZW時代のテーマでもAEWや新日本のテーマでもなく、Holeの『Violet』を選んだモクスリーの入場は、洗練された狂気を放っており、今年のベスト入場といっても良いだろう。

 


試合は、ベテランらしく激しさや上手さを共存させつつも、シュートスタイルであっても、プロレスのメインイベントとして上手く纏めた内容となっている。序盤は打撃をちらつかせつつ牽制し合い、膠着したグラウンドの攻防をじっくりと行い、徐々に格の差を示し、ディッキンソンをアンダードッグとして設定する。場外に落とされつつも折れないディッキンソン。持ち前の馬力を活かした投げの連発とパウンド攻撃で、あわやという所まで追い込むも、パラダイムシフトよりのダブルアーム・スープレックスから逆転し、地力の差を見せ、モクスリーが辛勝。若さから繰り出す棘や狂気はないものの、両者実力の高さを如何なく発揮し、完成度の高さで勝負した内容。


開会式、入場、試合中、試合後と全編通してモクスリーのスター・パワーが群を抜いており、今までも物凄く、業界トップレベルで闘っていたが、遂に今日オール・タイム・ベストのレスラーになった。個人的にはオースチンの影も見えた位。名声がないと出来ないものではあるけれど、金や名声ではないし、理屈じゃない。純粋な試合の質では、もっと高品質な試合は沢山ある。しかし今年いや近年屈指の魂を揺さぶられた激闘。万人にライト層にこの試合が届くかは難しいかもしれないけれども、長く観続けてきた全世界のUSインディーファン、マニア達への最高のご褒美には違いない。必見。文句無しに好勝負。
評価:****1/4

全体評価:9.5