長女(3歳・年少)は、生まれたときからずっと偏食気味だった。白いご飯とうどんとバナナさえあれば生きていける、と本気で思うくらいの偏食っぷりで、僕は毎晩「せめて一口だけでも」と言っては、皿の隅で固まる娘の顔を見てため息をついていた。

 

ある日、いつものように「一口だけ食べてみたら?」と声をかけたとき、娘がスプーンを持ったまま固まって、目に涙をためているのに気づいた。食べたくないんじゃなくて、食べられない。そう気づいたのは、そのときが初めてだった。

 

この記事では、脳科学の視点から偏食のメカニズムを整理しながら、実際に僕が「やめてよかった声かけ」と「効果があった声かけ」を、長男(6歳・年長)と長女(3歳・年少)、それぞれの実体験を交えて紹介する。

 

■偏食は「わがまま」じゃない。脳科学的にみた本当の理由

 

まず知っておきたいのは、幼児期の偏食の多くは、しつけの失敗でも親のせいでもなく、脳の発達段階として自然に起こる現象だということ。

 

3〜6歳ごろの子どもには「フードネオフォビア(食物新奇性恐怖)」と呼ばれる、初めて見る食べ物や慣れない食感を警戒する本能が強く働く。これは進化の過程で、歩き回って何でも口に入れるようになった幼児が、毒のあるものを誤って食べないようにするための防衛反応だと考えられている。

 

さらに、幼児期は味覚を感じる「味蕾(みらい)」の数が大人より多く、苦味や酸味を強く感じやすい。ピーマンやトマトを嫌がるのは、大人が思う以上にえぐみや酸味を強烈に感じているからで、これも「わがまま」ではなく感覚の特性だ。

 

つまり偏食は、子ども自身が悪いわけでも、親の育て方が悪いわけでもなく、成長の過程で誰もが通る脳の発達現象。ここを親が理解しているかどうかで、日々の声かけの余裕がまったく変わってくる。

 

■やってしまいがちなNGな声かけ3つ

 

僕自身、長女の偏食に向き合う中で、無意識にやっていたNG行動が3つあった。

 

①「一口だけ」を繰り返し要求する

一見やさしい声かけに見えるが、フードネオフォビアの状態にある子どもにとっては、怖いものを無理やり口に入れさせられるプレッシャーでしかない。要求を繰り返すほど、その食べ物への警戒心はむしろ強化されてしまう。

 

②きょうだいや他の子と比較する

「お兄ちゃんは食べられるのに」「〇〇ちゃんは好き嫌いないのに」という比較は、子どもの自己肯定感を下げるだけで、食べる意欲にはつながらない。長男に対して無意識に使ってしまい、後で反省したことが何度もある。

 

③食べないことを叱る・落胆した顔を見せる

食事の場がネガティブな感情と結びつくと、子どもは「食事は緊張する時間」と学習してしまい、ますます新しい食べ物に挑戦しにくくなる。

 

■脳科学的に効果的な声かけの工夫

 

NG行動を洗い出したうえで、僕が実際に意識するようになった声かけがこちら。

 

「食べる」ではなく「見る・触る・匂いを嗅ぐ」を目標にする

フードネオフォビアは、繰り返し「見て慣れる」ことで少しずつ和らぐことが分かっている。いきなり口に入れさせようとせず、「これ、どんな匂いかな?」「触ってみる?」と、食べる一歩手前のハードルを提案すると、子どもの警戒心が下がりやすい。

 

結果ではなくプロセスを言葉にする

「食べられて偉い」ではなく、「匂い嗅いでみたんだね」「お皿に乗せてみたんだね」と、挑戦そのものを実況するように声をかける。長女には特にこれが効いていて、「今日はスプーンで触った」を毎回一緒に喜ぶようにしてから、食卓での涙が減った。

 

年齢別に期待値を変える

3歳の長女には、上に書いた「見る・触る」レベルの声かけを中心に。一方、6歳の長男には、少し会話ができる分「これ一緒に切ってみる?」「どのお皿に何を乗せるか自分で決めていいよ」と、調理や配膳への参加を促す声かけに変えている。自分で関わったものは、抵抗感が下がる傾向を感じている。

 

■我が家で実際に効果があった工夫

 

長女の場合、効果があったのは「毎回同じ土俵で戦わない」こと。その日の体調や気分によって偏食の強さが変わることに気づいてから、「今日は無理そうだな」と感じたら、その日は潔く引く判断をするようにした。無理強いをやめたことで、逆に長女から「これ食べてみる」と自分から言い出す回数が増えた。

 

長男は年少の頃、似たような偏食があったが、6歳になった今はかなり克服している。振り返ると、彼の場合は「一緒に育てた野菜」「一緒に買った食材」など、食べ物に対する当事者意識を持たせたことが大きかったように思う。

 

ちなみに、我が家では「食べる」のハードルを下げる工夫として、区切りのある子供用のワンプレート食器も使っている。品目ごとに仕切られていると、苦手なものと好きなものが混ざらず、視覚的な安心感があるようで、長女も抵抗なく手を伸ばしやすい。

 

 

 

 

■よくある質問

 

Q. 食べるのが遅い子への声かけは?

急かす言葉は焦りを生み、余計に食べるスピードが落ちることが多い。「ゆっくりでいいよ」と伝えたうえで、時間で区切るより「これを食べ終わったら片付けよう」など、量や工程で区切ると子どもも見通しを持ちやすい。

 

Q. 偏食が強い子供にはどう対応すればいい?

無理に食べさせようとせず、まずは「見る・触る」など食べる手前の段階を目標にすることをおすすめする。極端な偏食で体重や成長に不安がある場合は、自己判断せず小児科や偏食外来に相談するのも大切な選択肢。

 

Q. ポジティブな声かけの具体例は?

「食べられて偉い」より「挑戦したね」「今日は匂い嗅げたね」のように、結果ではなく行動そのものを認める言葉が効果的。

 

■まとめ

 

偏食は、子どものわがままでも親の育て方の失敗でもなく、脳の発達段階として起こる自然な現象。「食べさせる」ことをゴールにするのではなく、「見る・触る・匂いを嗅ぐ」という小さな一歩を積み重ねていくほうが、結果的に子ども自身のペースで食の世界が広がっていく。

 

うちの娘はまだ白いご飯とうどんとバナナが中心の毎日だけど、「一口だけ食べてみたら?」をやめてから、食卓での涙は確実に減った。焦らず、比べず、今日できたことを一緒に喜ぶ。それだけで、食卓の空気はだいぶ変わる。