体裁は法廷ミステリーなのだが事件の真相は最後まで明らかにされないまま終わるので、実質は上映時間152分のかなりの時間を割いて描かれる裁判の様子を中心にした法廷ドラマだった。そこで暴かれるのは作家同士の夫婦の関係破綻。これがこの作品のテーマだと思った。

 この映画は昨年のカンヌ国際映画祭のパルムドール受賞作品なので、本当なら必要な予備知識を身につけた上で、もっと奥深いところまで読まないといけないのかもしれないが、自分には前述のようにしか理解できなかった。そして夫婦関係の破綻には興味がないので、そういう意味で自分にはあまり面白い映画とはいえなかった。

 自分なら裁判のシーンは30分程にとどめ、残り1時間くらいを使って妻=母親と息子、元恋人?の担当弁護士、3人のその後の関係を細かく描きたいと思う。息子と弁護士は殺人の可能性もあると内心疑っているはずだし、妻=母親も(もし夫を殺していないのなら)自死か事故死か判断がつかないままでいるはずだ。この3人がこれからどう関わり合い、どんなふうに生きていくのか。こちらのほうに自分は興味が湧く。

 最後に1つ気がついたことを書き留めておきたい。映画に登場したメディアは、裁判所には詰めかけるものの容疑者(有名な作家)の自宅にまでは押しかけていなかった。フランスのメディアは現実でもこういう抑制的なルールを守るのだろうか。