若い男ふたりが、川原でしゃべっている。
「・・・このあいださあ」
「ん?」
「スイカを見かけたんだよ、スーパーで」
「うん」
「でな、糖度10って書いてあってさ」
「ほう」
「俺、すっげえ期待しちゃって。ワザワザそう書いてんだからよっぽど甘いんだろうなって思ってさあ」
「うんうん」
「で、買って家で食ってみたら・・・そうでもないんだよ」
「えっ」
「なんか、甘いっつーより、さっぱりしたカンジ?」
「ああ・・・」
「まあ、勝手に期待しすぎた俺も悪いんだけどさあ」
「まあね」
「でも、なーんか、ガッカリしちゃってさあ」
「わかるよ」
「で、俺は思った・・・言ったモン勝ちだなって!!」
「んっ?!」
「堂々と胸を張って言えば、ショボイもんも大したもんに見えてくるって話だよ!」
「ああ、なるほどね・・・。 ん?そうか??」
「そうだよっ。 お前もさ、胸に『佐藤』ってかいてみ?」
「んっ?オレの名前??」
「そう!まわりが一目おいてくれるぜ! 『この人、ひょっとしてタダの佐藤じゃない?!』って!」
「・・・そう?」
「うん、盛り上がるぜ!『コイツ、ぜってえタダの佐藤じゃねえ!だってワザワザ書いてあるんだもん!』って!!」
「・・・・・・そうか?」
「うん!間違いない!!」
「でもオレ、運動会のときゼッケンに名前かいてたけど・・・、ちっともだったぜ?」
「それは、みんなもゼッケンだったからだよ! スイカだって、周りに他のフルーツが置いてあってゼンブに糖度の表示がしてあったら、俺、買わなかったよ?比べちゃうし、冷めちゃうからさ」
「そっか・・・。 なーんだ、こっちにもあるじゃんって?」
「そうだよ。 その点、自分だけが表示してたら違うよ絶対!今度、合コンでやってみ?」
「合コンで?!」
「うん。『佐藤です』って書いたTシャツ着て行け。・・・みんな覚えてくれる」
「覚えてくれるだろうけど・・・彼女はできなさそうだ」
「アピールだよ!何のウソもないし、正直者だって思ってもらえる!だって、本当に佐藤なんだから!!」
「佐藤だけど・・・ヘンな佐藤だって思われる」
「へんなもんか!!お前は正直者なんだよ!苦情なんてくるわけないって!俺だって、よっぽどスイカの業者に『甘くねえじゃん!!』って文句言ってやろうかと思ったけどやめたよ?!だって、すっげえ甘いって書いてあったワケじゃないし、甘さの加減が書いてあっただけなんだもん!あれ、ウソじゃないし、クレームになんないよ!」
「いや・・・、そっちはそうだろうけど」
「上手いやり方だよ、実際!!ウソつかないで相手に甘そうだって思い込ませるんだからっ!」
「う、うん」
「だからお前もさ、『佐藤』ですって書いて、堂々と言ってみ。スペシャルにきこえるぜ!!」
「そうかあ?!」
「そうさ! おまけにお前・・・足立区だろ?」
「う、うん」
「そして、佐藤だろ?」
「あ、ああ。間違いない」
「じゃ言ってやれよ!足立区の佐藤ですって!!ウットリされるぜ?!」
「ほ、ほんとに?!」
「ああ!!堂々と、威張るカンジで言ってやれ!ウソじゃないんだから!!」
「い、いいのかな・・・」
「いいさ!!言ってやれよ! お前はサトウ・・・しかも、足立区のサトウなんだからッ!!」
「あ、ああ!!」
「言ってやれ!!!」
「足立区に住んでるだけなのに?!!」
「ああ!!」
「いいの?!!」
「ああ!!」
「ただの佐藤なのに?!!」
「いいさ!!!」
「・・・そうか・・・。 なんか、自分がちょっとトクベツな気がしてきた・・・」
「いいんだよ、それで!!自信もって生きていけッ!!だってお前は、佐藤なんだからっ!!!」
「お、おう・・・!」
「どこの誰でもない、正真正銘の、佐藤なんだからっ!!しかも、足立区の佐藤なんだからッ!!」
「う、うんっ」
「ニセ者じゃない、ホンモノの、ほんっとーの、佐藤なんだからっ!!」
「おお・・っ。な、なんだか、特別なブランドみたいだ・・・!」
「それでいい!!そう!お前はスペシャルだっ!!その調子で、明日もあさっても、堂々と佐藤を名乗るのだッ!!」
「はいっ!」
「女にもてるぞおー!!」
「ハイ、先生ッッ!!」
「先生じゃないけど、まあ、好きなようによんでくれっ!」
「ハイ、先生ッ!!w」
「そして、大声で言えっ!胸をはって――佐藤です、と!!!」
「ハイッ!!佐藤ですッ!!」
「そうだ!もっと大きな声で!!」
「佐藤ですッッ!!!」
「もっとー!!」
「佐藤でーすッ!!!」
「アピールー!!!」
「足立区の!佐藤ですッッ!!」
「グイグイ行ってーーーっ!!!」
「ホンモノの、足立区の、佐藤ですッッ!!!」
「よーーしッ、いいぞー!!自分に、自分自身に、誇りを持てッッ!!」
「はいッッ!!!!」
「頑張れよ佐藤っっ!!」
「はいッ!ありがとうございました先生ーーーッッッ!!!」
「未来を切り開けーーーっ!!!」
「ハイーーーッ!!!」
佐藤、去る。
残ったもう1人、佐藤の背中を見ながらつぶやく。
「・・・素晴らしいな・・・!我ながら、いいことを言ってやった・・・佐藤のやつ、明日からモテモテだな・・・・っっ!!」