とある保険会社にて・・・。
店員と男性客の会話。
「いらっしゃいませ。今日はどういったご相談で」
「はい。実は・・・保険に入ろうかと思いまして。自分に何かあったら、家族が心配なんで」
「なるほど」
「体を張った仕事をしていますんで」
「というと?」
「お笑い・・・なんですよ。しかもコンビ組んでやってるんで」
「コンビというと・・・漫才とか?」
「ええ」
「漫才って・・・『あの』?何か言うたびにアタマをどつかれたりする・・・?」
「ええ。どつかれる方なんです」
「そりゃ大変だ!今すぐ、保険に入られることをおススメしますっ!」
「だから来たんですけれどもッ!」
「・・・」
「・・・」
「わ、わかりましたっ。今スグ書類をお持ちしますのでっ!」
「お願いしますっ」
「・・・お待たせいたしました。今日、ハンコはお持ちですか?」
「ええ、もちろん」
「では、すぐに契約を・・・」
「はい」
「で、その保険の種類なんですが、アタマをどつかれた場合の入院、ケガ、死亡ということでよろしいでしょうか」
「そうカンタンには死なないですけどね・・・。まあ、それでお願いします。 あ、あと」
「なんです?」
「番組などで体を張る仕事があるんですけれども」
「まだ、あるんですか?!タダでさえ、死亡のキケンがあるというのにっ」
「いえ、そうカンタンには死なないですけど」
「キケンと隣あわせで、タダでさえ大変だというのに?!」
「ま、まあ、お笑いのキケンをそこまでご理解いただけて有難いですけども」
「他にも何か?」
「ええ。あの、ローションを、ですね」
「はい?」
「ローション・・・あの、ヌルヌルするヤツ、あるじゃないですか」
「ええ、ああ、はい」
「あれを、ですね。体に塗りたくって、番組のスタジオとかで相撲とったり、暴れたりする仕事があるんですけども・・・」
「・・・・・(めっちゃ冷めた目)」
「あ、あの・・・」
「続けてください」
「え、ええ。あの、そーいうのでケガとかした場合、保険は下りるんでしょうか。もし保険を組んだら・・・」
「下りるワケないでしょう!!」
「え、ダメなんですか?」
「当たり前でしょう!!あんなヌルヌルするもの体に塗りたくったら、コケるに決まってるじゃないですかっ!そんなもんにイチイチ保険金だしてたら、ウチの会社、つぶれてしまいますよ!!ダメに決まっていますッ!!」
「そ、そうですか・・・。あれが一番、大変なんですけど・・・」
「だからってね!ケガなんかしたら、誰も笑えないんですよッ!もっとよく考えてくださいっ!!」
「は、はい・・・」
「仕事選びなさいよ、アナタッ!!」
「す、すいません。・・・あ、あとですね」
「まだあるんですかッ?!」
「ええ、あの・・・鼓膜がやぶれた時の保険なんですが・・・」
「あっ、どつかれた時のですか?たしかに耳に手が当たってしまったら、そういうこともあるかもしれませんよねえ!まったく、大変なお仕事ですよねえ、まったく!!」
「いえ、そうではなくて・・・」
「? なんです?」
「・・・大爆笑を・・・みんなの、ものすごい笑い声を聞いて、鼓膜が破れてしまったときの保険を・・・」
「?!!」
「じつは、こっちの耳、ちょっとヤバイんですよね・・・きこえにくくなっちゃってて・・・」
「?! あ、あなた、そんなに人を笑わせているんですか・・・ッ?!」
「(照)。 いや、なんていうか・・・笑顔が見られるのはいいんですけど、耳がね・・・。よく、痛くなっちゃうもんですから・・・」
「・・・あ、あなたという人は・・・・!」
「・・・(照)」
「・・・」
「・・・」
「―わ、わかりましたっ!スグに・・・スグに、契約の準備を整えますのでっっっ!!!」
「お願いしますっ!」
「・・・・・・あの・・・・・・・」
「なんです?」
「・・・素晴らしいお仕事ですね・・・・!」
「ええ・・・。僕も、そう思います・・・!!」
「―契約、スグに結びましょうねっ!」
「はい・・・!」
「そうなんだよな・・・。だからやめられないんだよ、この仕事・・・・!」