さすがに、連続で「香水や女の匂い」について、戯言を語るのは
我ながらバチが当たると思う……。また、いいネタを仕入れよう♪
勤務校最後の授業は、自然と野生動物に関するコラムだった。
一時間もあれば、半分は体験談を喋り、感想をノートに書かせて
授業が成立する。なんかないかと、記憶の倉庫をひっかきまわすと
あのハクビシンが天使になってから(知らない方は過去記事へどうぞ)
半年経った、とある晩のことだった。
オレが、初めて講師を勤めた村は人間は『腐ったミカンの集団』と
言って差し支えなかったが、自然はこの上なく豊かだった。
周りは緑に囲まれ、ノウサギやサルなどの野性の動物たちが
時々姿を見せてくれた。そんなさなか、オレはバカ学校でうつ病を
患うハメになり、世話になった前の教頭先生の勧めで、数日学校を
休むことになった。一種の「療養休暇」だ。
夜中近くまで、休暇の準備に明け暮れ(この時点で世の中間違ってる)
村の大きな道路を20キロ離れた親元に向けて走っていたときだ。
茶色い毛の動物が、道路にうずくまっている。やや大きめの
血だまりも路上にあった「!」……あの日・あの時救えなかった
可哀そうなハクビシンの記憶も、オレの中でまだ癒えてはいなかった。
今度は「タヌキ」だ…。オレを見ると逃げようとして近くの草藪に
もぐりこむ。……幸いだ。まだ『勝ち目』がある。適切な手当てさえ受ければ
命を救うことができるはずだ。
とはいえ、Y動物病院の二の轍はゴメンだ。命を救い、傷さえ治ったら
「野生に返す」のだから……。となるとトヤマ先生の所に走るしかない。
しかし、Zならいざしらず…当時乗っていたのは、ショートタイプの4WD。
お世辞にも速いクルマとは言えない。当時のガキどもは
『やーい!ディーゼル車~♪』とからかいやがったが、タヌキを救うには
コイツで、70キロ離れたトヤマ先生の動物病院まで夜の山道を
突っ走る以外選択肢はなかったし、ためらいなどしなかった……いや、
使命感以外の何物でもなかった…あの日の、小さなハクビシンを
見た時と同じ気持ちでいっぱいだったのだ。
4WDから、硬質プラスチックのタイヤハウスを外すと、少々乱暴だが
ロープを使って、投げ輪を作り、「お前には早く治療が必要なんだ」と
言い聞かせ、タヌキを捕えると、たらいのようなタイヤハウスに入れて
ドアを閉めると、アクセルを床いっぱいまで踏み込んだ。
村から峠を越え、市街地に出るまで一生に数回だろう、あんな
スピードで峠道を下ったのは。対向車がいなくて実に運が良かった。
市街地に出てからが過酷だった。国道に出たのが2時過ぎ。睡魔が
オレの意識を奪う。ふらつくオレのクルマに、大型トラックからイヤというほど
クラクションを浴びせられる。気持ちはわかるが、事情ってもんが
こっちにもある。カーステレオは我慢した。タヌキを落ち着かせたかったのだ。
案の定、タヌキは荷物置き場に置かれたタイヤハウスで丸くなっている。
時々声をかけ、様子を見る。しかし……体力がもたない。オレは
国道沿いのコンビニに入ると『眠々打破』を2本一気に飲んで、
トイレで顔を洗い、今度は一般道をアクセル全開で攻め続けた。
そんなこんなで、トヤマ先生の動物病院にたどり着いたのは
『AM4:00』を過ぎていた。起きている人間のほうが少ないだろう。
そんな中、インターホンを「…すみません!」と思いつつ何度も鳴らし
やっと灯りがついた。これで、カネにならない客なのだから、まったく
目も当てられない……。寝てるところの先生を、叩き起こしてしまい
やっと、治療を受けさせることになった。
先生いわく、「顔を、だいぶぶったみたいだねぇ…。まぁ、しばらく
手当てをしてあげるよ。経過はまた連絡するね」と言ってタヌキを
檻の中に入れたのだった。
しかし、このタヌキ餌は食べるのだが薬を塗ろうとすると
「シャー!」と威嚇し、トヤマ先生も頭を抱えたそうだ。そしてひと月後
先生から、『もう大丈夫だよ』の連絡が入り、オレはタヌキを迎えに行った。
檻を一つ、貸していただき、タヌキを運び出すと、オレは先生に
診察代を支払うことにした。先生は¥5000でいいよと言われたが、
それではオレの気が済まない。¥2000追加して「酒代」として受け取って
いただいた。さぁ…村に帰ろう。
親元で一泊して、タヌキには「鶏のささみ」をレンジで温めたものを
水で冷やして適温に料理したものを檻の中に放り込む。
朝になると、ささみはなくなっていた。食欲もしっかりある。やった……。
村にタヌキを連れてゆくと、山道の目立たないところへと、4WDを
進ませる。そして坂になったところで、オレはタヌキを下に下ろした。
もう、お別れだ。……しかしタヌキのヤツは丸まってふて寝をしている。
オレは枯れ枝を拾うと、タヌキをちょん・ちょんと突っついた。
もう、自分でエサを捕れよ。クルマに撥ねられるんじゃねぇぞ……。
開いた檻から、タヌキがゆっくりと顔を出した。
辺りを見回していたかと思いきや、ダッと外へと飛び出した。
そして、何か言いたげな顔でこちらを一度だけ振り返り、森の中へと
消えたのだった。
恩返しなんか期待していないよ…ただ、オレがこうして記事を書いている間
お前が、大自然の中で幸せに過ごしてさえいてくれればそれでいいんだ。
オレは、十分に満足したのだった。