帆場映一……記憶が正しければ、46歳。オレが知る限りでは
『虚構の中で最も緻密かつ、最も大胆かつ、最も傲慢な犯罪者』
コンピュータープログラマーとして、自他共に認める「神のごとき」手腕は
彼のイニシャルを取って『E・HOBA』とまで言わしめた。
しかし、ユダヤ教にて神の名前は『ヤーヴェ・ヤハヴェ』だと同僚から
指摘されたとき、彼は狂喜したそうだ。
そして、自らの完全犯罪を確信し……………海に身を投じ、死ぬ。
『機動警察パトレイバー・劇場版1』の冒頭は彼の死から始まるのだ。
「ペェェェーン」と、一打では情けない音しか立てないスチールドラムが
繰り返し連打され…帆場の狂喜が「狂気」に変わるのを表している。
オレは今日、帆場の隠れ家を見つけた。現実には存在しないハズの。
今日のバイトは、ショッピングモールのアンケート配布だった。
お礼には図書カードを渡すことになっている。
皆がみんな受け取ってくれるわけではない。さっさと帰れ、ぐらいのことも言われた。
できるもんならやっとるわい、ドアホ!それをやったら万札もらえんのじゃ。
一軒家やアパートを廻り、ある一角へ足を踏み入れてオレは唖然とした。
「なんだ……ここは…?」5・6階はある団地なのだが…生活感がないのだ。
コンクリートは古びて真っ黒になっている。時折、洗濯物を干している
ベランダがあるから、全く人がいないワケではないようだ。
「ペェェェーン!」……頭の中をスチールドラムの音が響いた。
ここは『帆場映一のいた場所だ!』
パトレイバーの話の中で、2年間に26回もの転居を繰り返した
帆場の住処は全て、「高層ビルの見える、再開発でいつ取り壊されてもおかしくない古いアパートや、築数十年を過ぎた団地」だったのだ。もちろん
自分の足跡を残さないためである。
オレは一気に気分が悪くなった。アタマの中でスチールドラムの音が
ガンガン反響している。夕方だったせいもあり、疲れも限界だった。
夜飲む薬を、次々手のひらに出していく。
アモキサン・トレドミン・炭酸リチウム・メイラックス…ソイツらを一気に飲み下し
5分ばかり、階段で座っていて…やっと落ち着いた。クソッタレ!!
冷静になって、仕事に戻る。
半ば廃虚となった団地の素性をアンケートを断られたお宅から伺い、
オレは愕然とする。
そして、新たな『怒り』がこみあげてきた。
その、廃虚同然の団地は『公務員の宿舎』だったのだ。
バカな国会議員どもは、赤坂に高級な議員宿舎を建ててロクな仕事も
せぬくせに、湯水のごとくカネを懐に入れる。
下っ端の公務員は、冷や飯を喰わされるがごとき生活を
強いられているのだ。
『夏の嘲笑』…誰が誰を嘲笑うのだろう…。
帆場映一に、オレはなりたくはないが………。