その晩は、カレーを作っていたのだが、ルーの素が足りず…買い出しに行かなければならぬハメになったのだ。
マンションを出ると、帰宅した下の階のご夫妻とかち合った。
今晩は、と挨拶すると向こうからも挨拶が返ってきた。ところが、旦那さんは階段を上がって行くのに、奥さんのほうは、何かもどかしそうな感じで口を開いた。
「ばたら君…だよね…?」
『それを知っているキミは誰だ?』
「ワタシの実家、薬屋だけど…」
『!!!さっちゃんか!?』
さっちゃんは、小学校では席が隣り同士で、真面目な優しい女の子だった。
おバカなオレは、彼女にしょっちゅうイタズラをして、半泣きにさせていた。やせてはいるが…面影は残っている。
中学生になってから、彼女はオリジナルのマンガに熱中し出す。あの頃は自己顕示欲のカタマリだったと恥じらう彼女だが、顕示して何が悪い。進研ゼミをイラストで飾ったり、また、20年前は貴重だった漫画の道具『スクリーントーン』を探して、東奔西走したマンガが、中2のときの進研ゼミに一本載ったくらいの情熱家だった。
ふとしたことで、彼女の創作活動を知り、声をかけたが『無視』(今までのツケだ)されてしまい…中学を出たきり、行方知れずとなったのだ。
その彼女が、縁があって…こうやって再び出会っている。
さっちゃんいわく、「声をかけなかったら、一生後悔するかもしれない…。」と思ったそうだ。
ならば、そのささやかな勇気に、オレは報いなければらない。
『酒は飲める?』と尋ねたら、好きらしい。二人で祝杯はあげられないが、今日という素晴らしい日に乾杯したい。
ちょっと待ってて!と、さっちゃんを待たせると、オレは部屋に戻り、冷蔵庫から一本のシードルを取り出して、さっちゃんに手渡した。
さっちゃんは、とても喜んでくれたが、それは、オレも同じことだ。
20年ぶりの再会に
『乾杯』