人間の運というものは、決まった何かがある。
その一つに『幸福の頂点には、魔物が住んでいる』(だからこそ、気をつけろ)という格言がある。
シードルを買いに走り、オレは酒屋を3件まわった。その2件目で『えらい目に遭った』。
信号そばのT字路、横断歩道で自転車を止めたときだ。右にオレンジのマークをつけた軽が止まっていやがる。
オレが横断歩道を渡ると同時だった。
左側を確認しなかったドライバーが、車を発進させたのだ。
「…ガシャッ」立ったまんまの状態で、オレの右足は軽のバンパーと、自転車のフレームに挟まれている。
運転席を睨みつける。乗ってるのはいい歳のお爺だ。車の中で、しきりに頭を下げまくっている。…それよりも「車を下げろよ」我慢できない痛みじゃないけど……痛い。怒ったオレが、ボンネットを叩いて、やっと足が自由になった。
さて、オレは間違っても「当たり屋」ではない。大袈裟にわめき立て金をむしるなど言語道断だ。なにせオレは『教師』なのだから。
お爺が軽から降りて、謝ってきた。ただ気に喰わなかったのは「自分が年寄りだから…」という言い訳だった。
オレは、『ド説教』を喰らわしてやった。
「あんたなぁ、べつに我慢できない痛みじゃないからいいよ。でもなぁ、自分が年寄りだからなんて言い訳通りゃしねぇし、オレが悪党だったら、いくらでも痛いだのなんだの言って、金をむしられるんだぜ。運転してるんなら歳なんざ関係ねぇ、きちんと確認しろ!」
と、その場を収めた。
結局、シードルは見つからなかった。
三軒目の馴染みの酒屋でも、「いいシードルが今はない」という理由で置いてなかったのだ。
代わりに、オーナーイチ押しのマスカットのシャンパンを薦められ、気分よく支払いを済ませると、オレは店を後にした。
マスカットのシャンパンを、冷凍庫にほうり込み、夕方まで昼寝を決め込む。目覚めた頃には、シャンパンは心地よく冷え…足の痛みもひいていた。
久しぶりに一本空けてしまった…。
シードルは……『現金を手にしたとき』こそ、飲むこととしよう♪