気がつくと、私はソファーからフローリングに
移動していて、有ろう事か旦那の膝の上で
膝抱っこされていた
(あっ、この男、私を裏切った男だ!)
我に返って真っ先に思った感想だった。
ジタバタする私。
(断固拒否ヽ(o`皿′o)ノ離れろ!触れるな!!)
「しーっ、大丈夫だから、ゆーっくりマネして」
というと、ひょっとこ口になる旦那
「短めに3秒息を吸ったら、
フーッと8秒から10秒かけてゆーっくり吐いてみて」
というと、支えている手でポンポンポン、
ポンポンポンポンとリズムをとりながら、
ひょっとこ口でスーッ、フーーーッを反復する。
仕方なくマネをしていると、呼吸の乱れがおさまって
息が少しずつ、しやすくなった。
「しばらく、そのまま続けて」と旦那に言われるまま
やっていると、心音や心拍も正常に落ち着いてきた。
「Masakiはね、オレのせいで過呼吸になって、
ほんの数秒だけど失神していたんだよ。
過換気症候群かもしれないし
不整脈が心配無いものかどうかも、
落ち着いたら念のため病院で診てもらおう。」
と旦那が言った。
失神?
それなら、もう目を覚ましたくなかった……
頭でも打って記憶がなくなっていれば良かったのに……
と、罰当たりな考えが浮かぶと同時に
断片的に記憶が蘇ってきた。
……私があの疑問と自責の念の無限ループに
襲われていたとき、私は旦那と話しながら、
○○○○さん(旦那の不倫相手)の
ラインのタイムライン投稿を見ていた。
そこには、中学生か高校生か位の女の子が、
お友達とライブに行った時の様子や
夏休みのバーベキューや花火をして
楽しそうに笑っている様子など
四季折々での思い出が
たくさん写っていた。
私の目が節穴で
不倫をするような旦那だと気づかなかったせいで、
旦那が、一線越える事を止めることができなかったせいで
この子を傷つける結果になったの?って
その時、頭の中で疑問の声がしていた……
私達夫婦は数年前に話し合って子供をつくらず、
夫婦2人で暮らしていくという選択をした。
我が子はいないが、
子供が親の愛を信じられなくなる気持ちを
私は身を持って知っている。
(↑両親、またはどちらかが不倫したとかではありませんが
その話は、話せる自分になったら、話したくなったら
伝えたいと思います。ごめんなさいm(__)m)
だからこそ、この子の笑顔が
消えてしまうような事だけは、
私自身の意志だけで言えば
するはずがなかった。
それなのに……
現実には、私の旦那が、
この子の母親と不倫して傷つけてしまっている。
この子がその事を知っている、知らないに関係なく
それが真実。
私が止められなかったから……
その時に息苦しさがどんどん増して、自分が何かを
喋ってはいたが、言葉が途切れ途切れだった。
何て言っていたのか自分でもわからない。
ただ、その瞬間は無意識に泣いていた気がする。
話した言葉だけ、記憶がすっぽり抜けているが
それを言ったからなのか?泣いたからなのか?
何なのかわからないが、気持ちが少し楽になったような
感覚もあった。
口を忙しくパクパクさせた旦那が何かを言っていた。
何て言っていたのか、その部分もわからない。
何やら、全身で訴えていたように感じた。
その後、旦那が、大粒の涙をポロポロと流して
急に駆け寄ってきて
「ごめん、ごめんねMasaki、ホントにごめん」と
後ろから抱きしめていた。それは蘇った。
この世で今、最も抱きしめられたくない男に
勝手に抱きしめられた私は声にならない声で、
離れてって本気で言ったのも思い出した。
たしか振り払おうとしていたはず。
でも力には、かなわず、あきらめたのか、
気力がなくなったのかわからない。
息苦しさが続いている中で更に
呼吸が乱れ、波の高い海で息継ぎを高速で
プハッ、プハッ、(表現力の乏しさったらない……)
としているような感覚の症状が長く続いていた。
何分経過したのかわからない位、長く感じ
判断力が低下する中で、
あーこれが、もしかして過呼吸なのかなー?
私このまま死ぬのかな?それも仕方ないな、
ただ、最後の日がこんな終わり方なんてサイアク
って思っていた事も蘇った。
記憶が抜けている箇所を
何とか思い出そうとしても、
全く思い出せなかった。
思い出せた記憶の中で
強烈な記憶として残っているのは、
あの女の子の笑顔。
そして、付き合って10年、結婚して約10年の中で
1度も涙を流した事がない
節操もない
この冷酷無情な男が
ポロポロと大粒の涙を流していた姿だった。
映画を観ても、葬儀の場面でも
旦那は涙を流さない。
2回程、目がうるっとしているのは
見たことがあるが、涙は流れなかった。
いくら感受性は人それぞれとは言っても、
物心ついた時から同居して可愛がってもらったと
言っていた旦那の祖母の葬儀の時くらい、
涙を流して欲しかった。
独身時代の付き合いはじめからずっと
結婚してからもずっと
私の事もすごく可愛がってくれた旦那の祖母。
私の方が大泣きしていたのが
なんだか切なかった。
それぐらい、旦那は泣かない、どんなときも。
頬を伝う程の涙を流した姿など
これまでに1度も見たことがない。
それなのに、一体何の涙だったのだろうか?
それすらも猿芝居なのだろうか?
そもそも、私はあの時、何を話したのだろうか?
なぜ、そこだけ、記憶が蘇えらないのだろうか?
「とにかく、一緒にいたくない、私はここにいたくない」
気がつけば、旦那から離れてそう告げていた。
「病院には行った方がいいから、今から行こう」
「行きたくない。しばらくどこかに泊まる!」
「それは、やめて。失神もしてるし色々と不安だから、
お願いだから家にいて。
Masakiはオレと一緒にいたくないだろうし、
顔見るのも、声聞くのも、 息を吐くのもイヤだろうから
車でオレは過ごすから。
駐車場にいるから何かあれば呼んで。
オレのスマホはMasakiが、まだ見てる途中だったし
ソファーに置いたままだから」
そう言うと、車のキーだけ持って
着のみ着のまま肩を落として
出て行った。
冬空の夜、熱もある男、
エンジンかけっばなしの
車中泊は危険もある。
それでも、
私は止めなかった。
パタンと閉まったドアを見つめ
終わるってこういう事なのかなって思っていた。