【Neuf Les Mille et Une Nuits=ヌフ レ ミレ ユンヌ ニュイ =ニュー 千夜一夜物語 No.976】
《四斗樽》
此れは此れはようこそお越し下されました!
手前は浅草は御籾倉に店を構えます〔赤札付き〕の結城屋 滉衛門と申します!
江戸時代の変わった職業の第73位(貸本屋)の続きです!
つぐみは中屋敷の賄い方を手伝いながら、下士の軽口に耳を傾けておりました!
今日の膳は若君忠道様の元服と御目見得を祝した物で、白身の御刺身に升酒一杯が付きました!
鎌倉河岸の豊島屋から御祝いに贈られた四斗樽の下り酒で、普段口に出来ない品物で御座いました!
めったに呑めない酒でしたので、量にかかわらず下士達の口も滑らかになって行きました!
つぐみは中屋敷になると、こんなに意識が低くなるものかと、嘆かわしくなりました!
しかし、二、三日も経つと考えが変わってまいりました!
御台所で食事をするのは基本的には独り者で、結婚して御長屋に住んでいる者は、御長屋にて食事を摂りました!
御長屋の御内儀や御新造は、子育ての合間に手内職に明け暮れておりました!
針を持ち縫い物に精を出す者が多く、町人の着る物より武家の方の仕立てが主立ったようです!
《武士の内職いろいろ》
筆の立つ者は書肆の下請けで筆写や、御祝い用の色紙、招待状、喪の挨拶や礼状など多岐に亘っておりました!
男共は精々御定まりの傘張り、扇張り、団扇張りと張り物が主で御座いました!
本来の武士なら、これだけ暇でしたので、武術を磨き、学問に励み、剣道場の代稽古や師範代、学問所の講師や、せめて寺子屋の師匠くらいは務めて欲しいと思わずにいられませんでした!
《傘張り》
つぐみは、火盗改めの屋敷で日々緊張した武家の生き方を知った気でおりました!
役に付けない旗本、御家人、大名の下士は、生きて行く為の日常に追われ、藩や御家の将来を考える余裕など持てなくなった家臣ばかりでした!
酒井藩中屋敷の家臣団のせめてもの救いは、まだ悪事に手を染めてはいない、善良な市民だったということでした!