※ドッペルネタです。枡屋(暫定)と古高がいます。
――そもそも、わては自己愛なぞ持ち合わせていない。
目の前の男、古高はわてを見るなり細い目を見開いた。
あからさまに驚いたその様子に、いつものお得意の煙に巻くような余裕ぶった態度はどうしたんやと可笑しくなり自然と笑みが零れる。それを嘲笑と捉えたのか、古高は眉を顰めながら苦々しく口を開いた。
「…何の用や」
そう言い放ち再び細められた古高の視線には警戒心が含まれ、極力関わりたくないと言外に滲むようやった。我ながら可笑しな人や、まさか自分が怖いとでも言うんか。
『そない怖い顔してどないしはったんどす?わてはあんさん自身。何を怯える必要があるんや?』
告げれば古高は苦虫を潰したような顔で吐き捨てた。
「あんさんが、わて自身?…阿呆言いな、わてはあんさんみたいに『汚れてはないて?』
思わず被せた台詞とともに漏れたそれは、今度は本物の嘲笑やった。
甘ったるく綺麗でおろうとするあまりに、自分の汚れから目をそらす古高に込み上げた感情は
本来ならば本体である古高自身が持つべき自己嫌悪であるはずやのに、どうしてこうも腹が立つのか。
『そらな、わては役目のためなら好いてもおらん遊女も抱く。壬生狼にもへりくだる。どない嘘でもつくし、必要ならいくらでも手を回す。…せやけど、』
するりと腕を伸ばせば、古高の身体が警戒するようにびくりと跳ねた。
それを見咎める気もおきずそのままの勢いで目前の男の前髪を乱暴につかみ、自分の歪みを見ようとしない古高と視線を合わてやる。
そうすると痛みに小さく呻いた古高の深緑の瞳が、ぎらぎらと憎しみを持っているかのように煌めいた。
『そうやって嘘に嘘を重ねて取り繕うてる、あんさんの手やって綺麗やないやろ?』
「そないな、こと」
『ははは、ないなんて言い切れんのと違いますか。
――…なあ、古高はん。お綺麗ぶるあんさんを守るために、どんだけの人間がおらんなったやろうなぁ』
張り詰めた空気に、自分の声がやたらと低く響いていくようやった。
責めるような声音は同時に自分の身をも切り裂くようでじわりと嫌な汗が滲む。
「…いらん、世話や」
『さよか。…あぁ。そういやこないだ紹介されたあの浪士、斬られたらしいなぁ』
その言葉にぴくりと肩を震わせて反応をしめす男をよそに、覚えている限りの名前を列挙してみせる。
その度にぎらぎらと煌めいていたはずの深緑の瞳が揺れていくのが見えた。
両手で足りぬほどの名前を列挙するころには、彼は青褪めた顔で唇を噛みしめ、血が滲むのも余所に何かをこらえるように黙りこんでいた。
『――…、清十郎はん、小十郎太はん。
あぁあと、半蔵はんも斬られはったんやてなぁ。あん人、祝言控えとって…自分には勿体ない器量の良しのべっぴんさんやと惚気てはったなぁ』
「…っ、やめ」
『最後まで聞いとくれやす』
こぼれかけた制止の言葉を遮り、今一度強く掴んだ髪を引っ張れば情けなく呻いた声が漏れた。
『お綺麗なあんさんを守るために囮になって死んでいった仲間や。
死に際の表情も、残した言葉も覚えとるんやないか?それを向けとったのはわてやなく古高である…』
「――っ、もう、やめとくれやす…!」
男はそう声を荒げれば両手で耳を塞ぎ、掴まれたままの髪が鈍い音を立てるのも構わず聞きたくないとばかりに首を横に振りかぶる。揺れていた深緑はとうとう歪みきって、その様子がまるで叱られて自分は悪うないとごねる稚児のようにも見えた。
『…分かったやろう。わてもあんたも、汚いんや』
掴んでいた髪が離れ、所在なさげに空いた手を見つめて呟いた。
視界の端で僅かに肩を震わせる男を捉え、改めてこれが自分自身なんやと痛感する。
嫌な汗はとうにひいたが、今度は冷え切ってしまった着物と心がやけに気持ち悪かった。
長い間しぃんと静まり返った部屋でぼんやりとうずくまった男を眺めていると、ふいにその男がだらりと腕を落とす。そうしてゆるりとこちらに歪んだままの深緑を向けると幾分か掠れてしまった声を漏らした。
「…枡屋、はん。…ひとつ、聞いてもええどっしゃろか」
『へー。わてにはあんさんより分かることなんてあらへんけど』
興味もないと言わんばかりに反発めいた言葉を返すが、それでも構わないように古高は言葉をつづけた。
所詮、独り言だ。
「…あのかいらしい子猫は、わてが触れてしもうたら、汚れてしまうやろか。
あの子が笑ろうてくれとったら、そんでええ。高望みなぞおこがましいことはせん。せやから、」
『…せやから、なんや。その手であの子まで底なし沼に引きずりこむ気か、懲りんお人や』
「そんなつもりやない、わては、ただ…」
巻き込みたくない気持ちは嘘ではない、けれど引きずり込んででもこの手に閉じ込めてしまいたい自分もいるのを自覚しているのか、僅かに揺らめく緑が恨めしい。
『ほんにあの子が大事なら、その手が汚れとることをはよう自覚して手を引いとくれやす』
深緑の瞳にうつるよく似た顔が、泣き出しそうなほどに歪んでいた。
(引き摺りこむ覚悟が出来るまで、渡さへん)
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ラストにかけて、枡→古描写から自問自答的なものになっていけばいいなと思いながら書いたら読みにくい物になってしまったorz
結局二人は一人で、枡屋ちゃんの思ってることは自己嫌悪の一部なんですよっていう、言い訳
(自分は欺いている人間だと蔑まなくなるというか、ふっきれて巻き込んでも守りきる覚悟を決めて主人公ちゃんに手を伸ばせば多分枡屋ちゃんは納得して消えちゃう)
古高は自分のこと蔑みすぎてつらい…でもその葛藤が本当に辛くて切なくて、すき、です;w;
以下ツイッタで呟いたますふる呟き抜粋↓
・責任感のつよい古高が、周りからの期待やプレッシャーの重圧に耐えきれなくなるギリギリにいるのすげーたまらん はぐはぐしてあげたい
・ドッペルネタで外せないのは「ドッペルによる本体への責め苦」なんだよ個人的
・枡屋さん(暫定)は死を冒涜してるわけじゃなくて、優しいからこそ受け入れられない古高と、強いからこそ受け止めててその罪も受け入れてる桝屋みたいな。
本当は桝屋ちゃんも古高と受け止め方が違うだけで同じぐらい悲しんでる。
主人公ちゃんに言わせれば「あなたは悲しみのやりどころが分からないから俊太郎さまに向けてるだけなんですね」っていう話もいつか…いつか消化したいです…orz
・桝屋ちゃんは古高の「いいこであろうとする、綺麗であろうとする」感じが嫌いなんだろうなあ。自分だからこそ。汚いものも全部受け入れるように自己犠牲が特化されてる桝屋ちゃんウッ…
・古高は、桝屋ちゃん嫌いじゃないけど苦手。そんなに割り切って強くあれない(古高としての立場もあるし、性格的に犠牲をよしと割り切れない不器用なとこありそうだから)羨ましい反面、受け入れてるその姿が開き直ってるように見えちゃうんだなあ。そんなことないんだけど責任感の強い自分だからこそ。
結局、根本は自分に厳しいますふるちゃん…;w;