デイモン・ラニアンといえば1930〜40年代、ニューヨーク、ブロードウェイを舞台にした粋なショートストーリー、人情話、恋愛話を書いた作家である。小説だけでなくミュージカルや映画の原作も多く書いた。そして1984年に加島祥造訳の「ブロードウェイの天使」が出て、当時学生だった私はハマったのである。

1929年からの世界恐慌から回復していく30年代から1941年真珠湾までの米国の少し浮かれた空気感とブロードウェイという狭い範囲内で起きること、そこに関わる人たちのやり取り、情熱、心意気、生き様が魅力的だ。30年代といえばデューク・エリントンや、ベニー・グッドマンらビッグバンドのJAZZの時代。ギャングが賭場やBARにたむろし、ひと時の快楽と金を求めて老若男女がひしめき合う。常盤新平や久保田二郎のエッセイに出てくるアメリカでもある。


宝塚でもやってたのね

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そんな時代の匂いが立ち込める作品群の中でも素敵なのはやはり恋の話。生粋の大物ギャンブラーのスカイが惚れたのは魂の救済のため布教活動をする清廉な美女サラ・ブラウンだった。賭場でギャンブラーに声をかけて勝負に勝ったら相手に布教活動を手伝わせようとするスカイを、賭場に乗り込んでたしなめ、同じ条件で賭けようと言い出すサラ。その恋の行方は…、名作「ミス・サラ・ブラウンの恋の物語」。愛に多額の金を使いまくるブレインが死を前にして選んだ相手は…「ブレイン、わが家に帰る」、荒んでいた俺を立ち直らせてくれた親父さんと少女リリーのために…「サン・ピエールの百合」などビュアな気持、あるいは自己犠牲が真ん中にテーマとしてある。愛する人の幸せのために全てを犠牲にする男たち。こんな愛すべき人が現代にいるか!?そして照れ隠しのようにラストでヒネったジョークやオチを入れる。どれも素敵な全14篇。
「ブロードウェイの天使」と重複する話が多いが、今回は田口俊樹の名訳だから、そこも楽しめる。