1年前に図書館で予約した本の貸出可能メールが忘れた頃にようやく来た。「成瀬は天下を取りにいく」。その間に本屋大賞も取ったしベストセラーのようだし、借りて来て読み始めたら2時間くらいで読了してしまった。確かに面白い。


「わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」話はこの予測不能な言葉で始まる。全力で我が道を突き進む中学生の成瀬あかり、そして破天荒な成瀬に引っ張られる幼馴染の凡人島崎みゆき。閉店する大津西武に通って毎日テレビに映り、島崎と一緒に漫才コンビを組んでМ1に挑戦する。シャボン玉の天才少女からけん玉のチャンピオン、何でもこなして高校のかるた部で全国大会に出る成瀬。周りを気にせず自分のやりたいことを宣言して邁進する成瀬の姿は、周囲と比べ、周囲の目を気にする10代の自意識過剰を吹き飛ばし、清々しいほどに潔い。彼女と接することで周囲の人たちも意識しすぎて小さくなった自分を解き放ち、気にすることはない、恐れることはない、自分だけのために素で挑戦したらいい、という気持ちに変わっていく。島崎をはじめ同級生の女子や他校の男子、地元の大人たちの目を通して成瀬の眩しいほどの生き方が語られる。



周りを気に我が道を行くなら猫になりたい、なんて言ってる時点で人間失格。





成瀬がチラッとしか出てこない話も含めて6つの連鎖短編から成っている。本人の感情が読めず成瀬は周りを刺激し解放していくが、次第に彼女がロボットのように見えてきた。それがすべて第三者からの目によるものなので、成瀬自身は幸せなのか?彼女のモチベーションは何なのか、が気になってきたのだ。が、そこは最後の話で成瀬の気持ちが描かれる。逆に彼女の無敵感が薄らぎ、成瀬の普通の子の一面が見られ、そこで、ああ、これは青春小説だったんだなと気づいた。


 

 



「たくさん種をまいてひとつでも花が咲けばいい。花が咲かなかったとしても、挑戦した経験はすべて肥やしになる」

至言。人生は短い。周りを気にして、あるいは何か他の事情でやりたいこともやれないのはさみしいよね、と。気になったことは大小問わず何でも一生懸命やってみよう、と。若者に限らず十分に大人の自分にもシンプルに突き刺さる言葉だ。そう、成瀬が言うように200歳まで生きようと思えば生きられるんじゃないか。そしたら今からでもいろんなことにチャレンジできる。そんな元気をもらえる愉しい話でした。




100均で猫の紙製トンネルを買ってきたが、この後1時間でズタズタに切り裂かれた