双面獣は1人が敵と戦い、もう1人が大事な物をかばいなから運べるように2つの顔があるらしい。であれば、ひとつの首に顔が2つではなくより効率の良い付け方がある気がする。


今月の読書は甚く快調だ。二階堂黎人、初読である。海外ミステリは好きだったが日本のミステリはあまり読まない。『新青年』のような雑誌の古典ミステリは好きだったが現代作家

はほとんど読まない。


なぜ二階堂黎人の初読が「双面獣事件」なのか?と言う声もあろうが、図書館のリサイクル本の棚にあって目が合ってしまったのだから、これ以上の出会いはない。800頁近い新書版である。例のごとく持ち運びにくい厚さだ。二階堂黎人がどんな作家なのかわかりにくい一冊だったかもしれない。


さて、話はある女性の回想から始まる。奄美諸島の小島で起きた惨劇。山の神の怒りなのか。伝説の妖怪が狂ったのか。目から光線を発して人を焼き殺し、口から吐かれる息は肌を爛れさせ人を窒息死に追いやる。ゴリラのような顔を2つ持ち、4本の腕で人を引きちぎり、その肉を食う化物〈双面獣〉。次々と起こる殺戮。化物誕生の秘密は?暗躍する魔王ラビリンスの正体は?殺戮事件の全貌は?巻き毛の令嬢、美貌の女名探偵二階堂蘭子と双面獣、そして魔王ラビリンスの対決の行方はいかに!


 

 



話は太平洋戦争下の生体実験が絡み、大掛かりなストーリーになっている。大前提として双面獣は実在している。ラビリンスの悪魔的な能力も説明はないが眼前に存在する。そこに蘭子は立ち向かうが、話は登場人物たちの回想とワトソン役の二階堂黎人の記述が交互に出てきて、すごい勢いで展開する。名探偵の天才的な推理も、悪役たちの超人的な荒業の前に後手になりがちだが、話がぶっ飛んでて面白かった。最後は彼らの自滅的な行動に救われるのである。



話中に双面獣と脳を入れ替えられる青年が出てくる。2つの脳で〈闘う者〉と〈守る者〉の二役を務める双面獣は〈守る〉ために高い知能を必要とするために脳移植されるのだ。大人になって脳を化物に移植される恐怖はどんなものか。いや、ここで思い出す。先日読んだ「失われた名前」に出てくる5歳からサルに育てられ、大きくなっていきなり人間社会で揉まれる女の子の話だ。これはどちらも想像するに耐え難い価値転換だ。フリ幅はサルから想像もつかない人間社会のほうが大きいだろうが、人間から化物は血みどろのグロテスクや化物という存在への疎外感等心が耐えきれるのかわからない。なんか、気持ち悪くなってきた。