人外(にんがい)。
それは私である。
この2行で始まり、この2行で終わる中井英夫のとらんぷ譚第3短編集「人外境通信」。
好きな作家にハマるとひと通り入手できる本を読みながら、一冊だけ読まないで取っておくという癖がある。そして中井英夫は昔ハマった作家のひとり。
これは取っておいた一冊なのですが、そろそろ読んでおくことにした。中井英夫にハマるきっかけは、とらんぷ譚の第1短編集「幻想博物館」の巻頭「火星植物園」。彼の短編はいわゆる奇妙な味ジャンルに入るものが多く、この短編ですっかり痺れてしまったのだ。サキの名作「開いた窓」的な話。あの話も、読んでいてゾクゾクっと来た。中井英夫は現実と狂気の間をよく描き、読んでいてこちらも錯乱する。とてもきれいな文章を書く人で、繰り出される波にうまく乗れればとても面白い読書体験ができる作家なのだ。



「人外境通信」は13の短編からなる。確かに河出文庫「薔薇への供物」など他のアンソロジーでも読んだ話がいくつもあったが、冒頭の「薔薇の縛め」が良い。久しぶりの中井英夫ワールドが楽しめた。

中世の荘園らしき場所で、顔を見せない領主に依頼されたのは贄の男を預かって過酷な訓練を施してほしいということ。そしてその内容は…。両性具有的な、同性愛的な魅力、そしてマゾヒズム。倒錯した魅力。そしてそこに気を取られていると、最後にひっくり返されるというものだ。もちろんどんでん返しが売りではなく、流れるような文章とこの世界観を楽しめるか否かなので、当たり外れも多いし、前述のように波に乗れないと溺れてもがくうちに意味もわからず話が終わってしまうようなことはよくある。

そこに見える世界は現在の場所と狂気の間であり、異世界との間であり、事実なのか幻なのか。そもそもの世界をあまり日常的に描かず、両性具有や同性愛、マゾヒズムといった不思議な魅力に薔薇の香りをまとわせる。


夜の散歩ではぼんやりとした照明を見るのが好きだ。日本家屋から明かりが見えた。この闇と光の間に、なにか隠れてるような気がする。この部屋の向こうで不思議な、あるいは魅惑的な、秘密の何かが隠れているような妄想が広がる。
人外。それは私である。


猫も扉の場所を知ってる。冬は猫がいちばん