20世紀初めのこの小説が、これほどまでに面白いとは思わなかった!

ホフマンやポーの流れを汲んだウイーンの作家グスタフ・マイリンクが1915年に発表した幻想文学の傑作「ゴーレム」。とんでもなく私好みではないか!世紀末から精神世界にのめり込み表現主義が進む当時のウイーンの嗜みなのかもしれないがカバラ、錬金術、占星術、神智学など神秘主義の影響を受けたマイリンクが、ユダヤのゴーレム伝説をもとに書き上げ、第一次大戦の最中に大ベストセラーになったという。


 

 


ゴーレムといえば1920年の名作映画「巨人ゴーレム」がある。監督はパウルヴェゲナー。ドイツ表現主義の無声映画だ。土塊から作った泥人形にカバラの秘術で命を与え、肉体労働をさせる。その泥人形をゴーレムという。フランケンシュタインや大魔神に影響を与えたと言われている。


しかし、この小説はゴーレムが暴れるような類の話ではない。話は少し複雑だ。プラハのユダヤ人街に住む宝石細工師の「ぼく」は、ある日、謎の人物の訪問を受ける。しかし客の帰ったあと、彼について何も思い出せないことに気づく。男は33年ごとにこの街に出現するゴーレムらしいのだ。「ぼく」の名はアタナージウス・ペルナート。宝石細工師であるが、それはどこかで間違えた誰かの帽子の裏に刺繍された名前のような気もする。やがて「ぼく」の周辺では、ゴーレムの出現に導かれるように奇怪な出来事が次々に起き始める。分身、タロット、地下迷宮、両性具有、至高の愛とグロテスクな淫欲、血の復讐、殺人事件……。数々の不思議な事件に巻き込まれ殺人犯として逮捕された「ぼく」は監獄の中で、様々な人の意識の中を〈彷徨う〉男に出会う。そして身の回りに起きている謎が明らかになっていく。タイトルであるゴーレムは人形の外見と命ある内面を象徴するのだ。


 

 


話の構成が見事だ!最後の最後にすべてが明らかになり、ハッピーエンドである一方で読者を不安にさせる。これ以上は調子に乗って内容を言わない方が良いだろう。神秘主義思想を背景に夢と現実が、虚構と真実が絡み合って幻想的な世界を構築している。ラストに謎はどんどん明らかになるが、新たな謎が生まれていく。


これも、図書館のリサイクル本の棚からいただいてきた紙魚だらけの汚い本なのだが、これはまたいつか再読したいので白水社の本を買っておくことにしよう。




今日は神田川沿いにある東京で一番美味しい寒天と言われる讃岐屋で、林檎餡と焼栗餡のあんみつを購入。夢か現実か混乱して疲れた読後の頭に甘いモノ注入。