「恋愛は人生の花であります。いかに退屈だろうとも、この外に花はない」と坂口安吾は言った。退屈な恋愛があるわけもない。そして恋愛に勝る花はない。

ラブストーリーはワクワクするので今だに好きだが年齢を重ねるにつれて嗜好は少し変わってきた。



グレアムグリーンはかなり好きな作家だ。彼のラブストーリーはストレートではない。愛という話題には神が必ず入り込んでくる。



まずは英文学史上に名を刻む恋愛小説の最高傑作とも言われる「事件の核心」。
「幸福と愛を混同するのは間違いだ」恋愛小説の傑作とはいえそこに甘さはない。妻と恋人と神との4角関係を描くキリスト教哲学小説の名作。西アフリカの植民地の警察副署長スコービーは南アフリカに移住したいと言う気まぐれな妻のためにシリア人の悪党に金を借りる。妻が発った後、海難事故で夫を失った若い女ヘレンと出会う。

グリーンの凄さは無駄のない人物描写にある。何かの役割を持って過剰に語ったり作者すら気持を理解できない人形のような人は出てこない。登場人物はごく自然に登場しその一挙手一投足が適確なジャブのように後々確実に効いてくる。そうそうと言ってるうちにこちらは迷路に迷い込み、それでも前に進むうちに一気に視界が開けてすべて計算づくだったことに気づく。戻ってきた妻と理解ある恋人がいる中でスコービーはある決断をする。心の中は永遠に他人にはわからない。

ときめきこそが人生の花でありときめきの数だけ罠がある(≧∀≦)
しかし果たしてそれは罠なのか。恋人への愛、家族への愛、友への愛、人類への愛、神の愛、違うものなのになぜすべて愛という言葉で表現するのか、それが我々人類の謎。魂が震える傑作。
そしてもう一冊「情事の終り」というのがある。真の愛と神の存在を問う「情事の終り」人妻サラとの不倫の関係が終わって1年半後、サラに疑念を抱く夫ヘンリーから話を聞いた作家ヘンドリックスは自分が振られる原因となった男がいるのか勘繰って彼女の素行を探偵に調べさせる。愛は終わるものではないと言いながら去って行ったサラ。ミステリのような展開の中、入手した彼女の日記から明らかになる真実は…。愛し合っているのにすれ違う想い、そこに割り込む神。ロミオとジュリエットばりの煩悶。そして思いがけないサラの死。しかし残された男たちの人生は続く。



カトリック教徒でありながら神を憎んだ20世紀英文学の巨匠グレアムグリーンが愛する人そして神との邂逅をリアルに私小説のように書き上げた。魅力的な設定を用意しながらも登場人物の思考の変遷で読ませる。彼らの恋愛の行き着く先はどこなのか。この2冊、どちらも最高傑作。