1トンあたりの価格が1万ドルを超える
「異常事態」に
主に不作が続くのは、世界のカカオ豆生産の約6割を占める
ガーナとコートジボワール
気候変動と病害が、その原因となっている。
「現地では干ばつのせいでカカオの木が枯れてしまい
また大雨によって農地が深刻なダメージを受けています。
加えて、病害虫の被害が増加しており
カカオの木に病気が広がっている。
本来、カカオの木というのは、高温多湿で降雨量も多い地域で育つ植物なのですが
度重なる気候変動によりカカオの収穫量は前年比3~4割も減少してしまいました。
その結果、2024年現在、カカオの価格は前例がないほど
高騰する異常事態となっています」
市川歩美
昨年秋までのカカオ豆の1トンあたりの価格は
3000~4000ドルで推移していた。
それが、今年2月のバレンタインシーズンには6000ドル近くまで上昇し
3月下旬には1万ドルを突破した。実にこの1年で3倍にも跳ね上がっている。
「業界関係者からはカカオ豆を過去に買い付けたものの
約束した量が実際に届くかどうか、といった不安の声があがっていますね。
毎週、カカオの価格を確認しつつ、緊急の会議を重ねている企業もあるほどです。
物価高、円安も重なり、チョコレート価格を値上げせざるを得ない
と考える気運が高まっています」
市川歩美
カカオは、種まきから実ができて
収穫できるようになるまでに3~4年を要する。
そのうえ、発酵や乾燥、梱包など、人の手で
作業しなければいけない工程が大半を占める。
生産者には大きな手間がかかるが、不作の影響で生産体制が
ストップしてしまったカカオ農家もあるという。
「そもそも主要生産国のカカオ農家は家族経営の小規模農家がほとんどで
手作業で行わなければならない仕事も多く
機械化による仕事の自動化も困難なのです。
また、カカオ農家の方々がカカオ生産で得られる賃金は、設備投資も
十分に行えないほど、先進国基準から見るとあまりにも少ない額となっています。
今回の不作で、カカオ農家を辞めてしまう方々も現れていると耳にしました。
カカオの生産は、工程が多いため、知識やノウハウがないと
十分な収穫量を見込むことはできません。
不作の影響でカカオ農家も減ってしまうと、今後ますますカカオの価格は高騰し
不安定になる恐れがあります」
「カカオの価格は、複雑な要因によって決定するので
今すぐにどうにかできる問題ではありません。
ですが、特に西アフリカの主要生産国の
カカオ農家の収入を上げることができれば
安定した生活につながり、農家がカカオ栽培をやめずに
継続してくれることになります。
今後も私たちが今後も安心してチョコレートを味わい続けるためには
カカオ生産国に意識を向けること
遠い国でカカオを栽培している人々の生活を考え
ある程度はカカオ豆の価格上昇を受け入れていくことも重要となってくるでしょう」
市川歩美
4月4日、コートジボワールでカカオ豆農家を営む
エデュアルド・クアメ・クアディオさん
1月、サンペドロにあるカカオ農場で撮影(2023年 ロイター/Ange Aboa)
貧しいままで一生を終えることになると諦めている。
[サンペドロ(コートジボワール)/ロンドン 4日 ロイター]
コートジボワールでカカオ豆農家を営むエデュアルド・クアメ・クアディオさんは
貧しいままで一生を終えることになると諦めている。
世界中でかつてないほど多くのチョコレートが消費され
原料の需要が高まっているにもかかわらずだ。
クアディオさんらコートジボワールの農家十数人は、ロイターの取材に応じ
収入はプログラム開始時に約束されていた金額はおろか
政府が設定した出荷額さえも大幅に下回ると明かした。
「決められた価格が守られていない。この稼ぎでは何もできない」
世界最大のカカオ輸出港があるコートジボワール西部サンペドロから
29キロの場所にある自身の小さな農地で雑草を刈りながら
色あせたTシャツを着たクアディオさんは嘆いた。
業界専門家11人は、こうした状況に至った原因として
生産余剰により世界中でカカオの価格が低迷したことや
チョコレート会社や商社・仲介業者がマージンを守ろうとしていることを挙げ
政府のプログラムには供給管理の仕組みがないなどの
「本質的な不備」があったと指摘
児童労働や貧困、森林破壊が問題視されてきたチョコレート産業では、
最近では倫理的なプロセスでチョコを生産しようとする機運が高まっている。
農家の収入を増やすどころか保障さえできていないLID
(所得適正化のための補償金)の失敗は、こうした流れに打撃となっている。
活動家2人と大手商社に務めるトレーダー1人の推測によれば
LIDが導入されているにもかかわらず、コートジボワールの約3分の1の
カカオ農家が得ている対価は、政府が設定した最低価格に届かないという。
LIDでは、世界のカカオ価格に1トン当たり最低400ドル(約5万3000円)の生活賃金保障金を上乗せすることで業界と合意していたが
この目標もおおむね達成できていない。
世界中のバイヤーが、これまで長年支払ってきた西アフリカ産の
高品質カカオに対する「産地プレミアム」を引き下げる対応を取ったためだ。
コートジボワールのカカオ産業担当当局は、政府が年に2度調整する
正規出荷価格を、複数の仲介業者が支払っていないことを認めた。
ただ、推定被害規模についての質問には回答しなかった。
スイス食品大手ネスレや米チョコレートメーカー大手ハーシーは
LIDで求められる生活賃金保障金を上乗せして支払ったと回答
スイスのリンツ&シュプルングリー、伊フェレロ、米マースは、LIDに加え
各社の持続可能プログラムの一環でさらなる金額を上乗せしたと答えた。
LIDの導入後、別途行われてきた産地プレミアムが
減額されたことについても尋ねたものの、返答した企業はなかった。
<生活収入>
コートジボワールとガーナ両政府は、ハーシーやバリーカレボー、カーギル
といったカカオ豆・チョコレートを扱う大手企業を後ろ盾にLIDを導入した。
コートジボワールとガーナは、両国合わせて世界全体の
カカオ豆の3分の2を生産しており、政府機関が流通を管理している。
両国は、400ドルの生活賃金保障金を上乗せすることで
税収を増やして非常用ファンドを作り
世界全体で価格が低下した場合でも
農家の生活収入保障に十分な正規出荷価格を設定できると期待した。
だが、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)が需要に影を落とし
緩衝策が整う前に国際的なカカオ価格が下落
コートジボワールとガーナは、プレミアムを上乗せしても
出荷価格を目標水準にまで引き上げることができなくなった。
8人のカカオ貿易業者によると、実際にはチョコレートメーカーが
LIDと産地プレミアムの両方をカバーできるほどの金額を支払っていないために
急激な損失を避けるべく、産地プレミアムを下げるよう交渉したという。
あるチョコレートメーカー大手の幹部は匿名を条件に、2種類の割増金を払うことは約束できないと述べ、LIDには見直しが必要だとする見方を示した。
コートジボワールとガーナは、企業側がどちらのプレミアムも支払うべきだとして
LIDの構造的な問題を否定
CIGCIは過去2年間で産地プレミアムが150%減少し
ゼロに近い状態だとするデータを公表している。
CIGCIのアレックス・アサンボ事務局長は「(LIDの)主な課題は
市場が、LIDを利益を侵害し得る要素として見ていることだ」と指摘
ロイターは、バリーカレボーやカーギルといった世界的なカカオ貿易業者に対し
LID導入後の産地プレミアムの減少について質問したが
直ちに返答が得られなかった。
プレミアム未払いのチョコレートメーカーの名前を公表するとの警告も
水面下で行われたものの、各国は自国にとって最大の買い手との対立が
行き過ぎることに慎重になっているようだ。
代替案としてアサンボ氏は、CIGCIが業界関係者を集めて
価格と市場に関するワーキンググループを設立したと表明
持続的な「価格メカニズムの解決策」を見出すことを目標に
4月に提言する予定だという。
ネスレ、フェレロ、ハーシー、マースの4社は
最新の取り組みを支持すると回答した。
<前向きな道のりか>
コートジボワールの田舎から買い付けを行う仲介業者は、カカオ豆を仕入れる際
政府が決めた出荷価格を下回る金額で購入しており
品質上問題がある分や、輸送・梱包にかかる費用を差し引いているという。
「生産者がこの価格を受け入れているのは、他に選択肢が無いからだ。
少しでも収入があるか、何もなくカカオ豆とともに腐っていくか、そのどちらかだ」
コートジボワール中部ダロアのバイヤー、アリ・ディアラソウバさん
コートジボワールのカカオ産地7地域にいる18人の農家は
1キロ当たり825西アフリカCFAフランと設定された昨シーズンの
出荷価格よりも15ー20%低い金額を受け取っているとロイターに明かした。
出荷価格を守るため、コートジボワールは昨年からカカオ豆の原産地が
追跡可能なカードの発行や、輸出業者への直接電子決済サービスを開始
政府のコーヒー・カカオ評議会(CCC)のイブ・ブラヒマ・コヌ事務局長は
ロイターに対し、これまでに30万枚のカードが発行され
仲介業者の値下げ圧力は弱まってきていると話した。
「(農家は)政府が保障した通りの金額を受け取ることができる。
農家に直接支払われることになる」
だが、新しく導入されたカードでは、余剰カカオ豆が
国際価格を押し下げているという長期的問題は解決できないだろう。
カカオ農家が適正な対価を得られるよう活動する団体VOICEネットワークの
アントニー・ファウンテン代表は、 企業責任を追及し続けることも重要とした上で
カカオ豆の供給量をコントロールしない限り
いずれにせよ失敗に終わる運命にあると指摘する。
「価格にだけ介入して、供給管理はしないなどありえない」
同代表
この点について、CIGCIのアサンボ氏は
「他の産出国に対する投資が、ますます増えてきている」ことから
コートジボワールとガーナは作付面積を減らすことにリスクを感じていると分析
供給管理は世界的な問題だと付け加えた。
国際ココア機関(ICCO)の産業データによると
コートジボワールのカカオ生産は2020/21年期に記録的水準に増加
今シーズンの世界全体の生産量は、ひっ迫すると見込まれている。
毎年コートジボワールが生産するカカオ豆、約200万トンのうち20─30%が
森林保護地区内で違法に栽培されている。
そうした場所で働く推定130万人の多くが子どもだ。
コートジボワールの農家、カリム・バンバさんは耕作地の拡大について
生計を立てる道が他になかったからだと話す。
「カカオを植える、やり方を知っているのはそれだけだ」
昨年のコートジボワールの森林破壊の増加率は
LID導入の初年度にあたる2020ー21年に比べて高いことが分かった。
米コンサルティング会社マッキンゼー傘下で、コートジボワール当局と
連携しているビビッド・エコノミクスのデータをロイターが確認
(Ange Aboa記者、Maytaal Angel記者)
チョコが値上がりしたなぁと思う人は多いだろう。
それでも、その価格が貧しいカカオ農家の所得になっていれば
まだ納得がいくかもしれないが、現状、そうはなっていない。
本来、ガーナとコートジボワールだけで3分の2の生産量を誇るのだから
価格決定の力関係は、この両国とそのカカオ農家に分があるはず
それなのに、カカオ農家は貧しいだけではなく、児童労働まで
この理由の主な原因は、買い手の力が強すぎたことにあり
もっと言えば、企業と株主の力関係が、両国とカカオ農家を上回っていたためである
農業というものは、商品化してはならないものの一つで
豊作であれば価格は下がるし、不作であれば価格は高騰する。
どっちであれ、農家は儲からないようになっている。
そのため、日本は戦後、農協が圧力団体となって農家を守っていた。
その農協を第二次安倍政権が狙い撃ち
かなり解体が進んでしまった。
カカオ農家のケースも同じで、農協のような組織があれば
このような事態にならず、ちゃんと守ることができていたはず
それをグローバル化だの、株式資本主義だの、難癖を付けて
市場と農家の間の緩衝材となる組織を作らせない。
この世は、所詮、弱肉強食だといって自由放任に任せていれば
悪いことしか起きない典型的な事例が、昨今のチョコレート危機である。
ちなみに、ヘーゲルは、このような自由を
「放埓な自由」と言って非難した。
マクロ経済として見るならば、お金は簡単に増やせるが
モノは、そう単純に増やせないという一例にもなる。
「維新スピリッツ」が招いたとも言えるチョコレート危機
にゃんで、チョコが食べられないんだとみんニャー嘆きそう、せ~の