「暴力は、自分の権力を回復したがっている者に対しては有効である。

 

 

しかし、暴力の意義はそれだけに尽きるものであって、

それ以上は、影響と実例が物を言う」

ウラジーミル・レーニン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

領土問題の本質

 

 

戦後日本の体制の根本をなすものは

「永続敗戦」の構造である。

 

 

「平和と繁栄」の「平和」が浸食されているが

それが最も顕著に表れているのは、領土問題

 

 

「敗戦の否認」という歴史意識が、明瞭に

また有害なかたちで現出している。

 

 

日本国家には、尖閣諸島・北方領土・竹島という

三つの領土問題がある。

 

 

「日本固有の領土」という論理は共通

日本のナショナリズムが燃え上がっているが

 

 

重大な政治的事実と歴史を見落としていて

三つの問題は、全く同じ問題になっている。

 

 

結局、国家の領土を決する最終審級は、暴力

歴史上の直近の暴力=戦争の帰趨によって規定される。

 

 

三つの領土問題は、第二次大戦の戦後処理であり

日本が敗北したことの後始末

 

 

戦後処理の基本方針が国民的に理解されない限り

平和的な解決はあり得ず、戦争の潜在的脅威であり続ける。

 

 

 

この国の支配的権力は、敗戦の事実を公然と認めることができない。

そのため、この問題を根本的に解決する能力を持っていない。

 

 

「尖閣も北方領土も竹島も文句なしに我が国のものだ」

「不条理なことを言う外国は討つべし」

 

 

こういう夜郎自大な「勇ましい」主張が

「愛国主義」として国内的に通用している。

 

 

 

尖閣領土問題

 

 

2010年9月7日 中国漁船衝突事件

9月17日 船長の2度目の拘留

 

 

日本の正式な司法プロセスに基づく姿勢を見せると

中国政府は、日中交流事業を次々に停止

 

 

建設会社フジタの社員4名を拘留

レアアースの対日輸出差し止め

 

 

温家宝

「われわれは(日本に対し)必要な強制的措置を取らざるを得ない」

 

 

9月24日 「那覇検察庁の独自の判断」で、翌日、釈放

海上保安庁巡視船乗組員が、ネットで映像を公開

 

 

 

「この一件に関して心胆寒からしめるのは

時の菅直人を首班とする日本政府が

 

 

虎の尾を踏むことになるという自覚が一切ないままに

緊張のエスカレーションへと突き進んでいったのではないか、という疑惑である」

白井聡  『永続敗戦論』(P85)

 

 

 

領海侵犯者を日本の国内法に厳密に従わせるという意思表示は

領土問題の「棚上げ」を、日本側が根本的に変更することになる。

 

 

1972年 田中角栄首相(当時)

「尖閣諸島についてどう思うか?

私のところにいろいろ言ってくる人がいる」

 

 

周恩来首相(当時)

「尖閣諸島については、今回は話したくない。

今、話すのはよくない」

 

 

「この問題を議論しだしたら

何日かかるかわかりませんよ」

 

 

1978年 鄧小平

「こういう問題は一時棚上げにしてもよい。

10年棚上げにしてもかまわない」

 

 

 

「絶対に譲れない」と口先では言うが、本気で奪いにゆくようなことは

当座はしない以上、白黒はっきりしない状態にとどめておく、という意味

 

 

本質的に切実な問題は

日中両国の漁民の利害である。

 

 

実質的に解決するために、日本政府は領有権主張を維持したまま

同海域を漁業協定の適用外とした。

 

 

この協定は橋本政権下で結ばれたので、「弱腰」と攻撃する前に

自民党自身が、自分たちを「弱腰」とまず批判しなければならなかった。

 

 

時の政府首脳は自分で自分が何をやっているか理解しておらず

一戦交える覚悟のないまま、チキンレースへと突入

 

 

司法手続きの中止と国外退去という、高度に政治的な判断を

一地方検察庁に押しつけ、責任と批判を回避という卑劣極まりない行動をとった。

 

 

2012年4月 石原都知事(当時)が

都の尖閣諸島購入宣言を行う。

 

 

「ナメられてたまるか」という単細胞的なナショナリズム感情に依拠し

政治不信・不満に乗じた。

 

 

9月、野田内閣(当時)は国有化を実行

逆に、中国各地で反日暴動が日系企業に多くの損害を与え

 

 

中国艦船および軍用機による領海・領空侵犯が

毎日のように起こる自体に至った。

 

 

 

 

石原慎太郎に対して

「政府の問題に「口出し」をした石原氏は、米国の関係が出てくると

たちまち「口出しはしない」と引き下がるようである。

 

 

(略)尖閣5島のうち2島は、米軍の排他的管理下で「日本人立ち入り禁止」

という現状を半永久的に続けて良い、ということなのである。

 

 

 

日本を代表する「ナショナリスト」の今日の立ち位置なのであるが

「米国にはへつらい中国や韓国には居丈高に振る舞う」という

 

 

戦後日本の”歪なナショナリズム”のあり方を象徴しているのであろう」

豊下楢彦(ならひこ) 『「尖閣問題」とは何か』(P10・11)

 

 

 

この「病的な卑小さ」に、「永続敗戦」の構造が

純粋なかたちで現れている。

 

 

米国には、際限なく従属構造を認めるが

他のアジア諸国に対しては、敗北の事実を絶対に認めようとしない。

 

 

「敗北の否認」を持続させるために、ますます米国に臣従

隷従が否認を支え、否認が隷従の代償となる。

 

 

米国の軍産複合体にとって、最も利益のある状況は

緊張の昂進に伴って、防衛予算が大幅に増加すること

 

 

日本の自称ナショナリストは、このために

大々的に貢献することを欲し、かつ行動している。

 

 

 

 

 

もう既に手遅れになってしまった感がある尖閣諸島は

中国共産党の支配下にある。

 

 

白黒はっきりさせてしまうことの欠点は

お互いのっぴきならぬところまで、追い詰められること

 

 

端的に言えば、戦争になる、ということでもある。

戦争を避けたければ、白黒つけないまま、曖昧な状態を堪えないといけない。

 

 

最終審級が暴力というマルクス・レーニン主義者らしいが

それが、「棚上げ」支持というのは、なかなか興味深い。

 

 

「棚上げ」している間に、日本の国力

その源泉であった経済が地に落ちてしまった。

 

 

もう現在では、尖閣問題など存在しない。

日本の漁民の利害どころか、近づくことさえできない。

 

 

戦後左翼が、自称ナショナリストをこき下ろす様は痛快だが

それは、自称ナショナリストに限った話ではない。

 

 

戦後左翼も、彼らと同じ床で、同じ夢を見ている。

こうなると、悲劇というより、漫才でもやっているかのよう

 

 

 

 

 

永続敗戦論―戦後日本の核心(atプラス叢書) [単行本]

 

 

 

 

 

 

「尖閣問題」とは何か