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2026年1月1日、EUの炭素国境調整メカニズム「CBAM」が本格適用されました。鉄鋼やアルミニウムなどの対象製品をEUへ輸入すると、その製造時に排出されたCO₂などに応じて炭素コストが発生する仕組みです。

日本企業にとって重要なのは、「EUの輸入企業だけが対応すればよい制度」と考えないことです。CBAMの申告や証書購入を行うのは原則としてEU側の輸入者ですが、製品を製造する日本企業には排出量データの提供を求められることがあります。今後は価格や品質だけでなく、製品をどれだけ低炭素でつくれるかもEU市場での競争条件になっていく可能性があります。

 

 

この記事のポイント
CBAMは日本企業へ直接「炭素税」を請求する制度ではありません。対象製品をEUへ輸入するEU側の事業者が申告・CBAM証書の取得などを行います。ただし、その計算には製造時の排出量情報が必要になるため、日本のメーカーや素材企業にもデータ算定・提供の実務が広がります。

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CBAMとは?なぜEUは炭素コストを輸入品にも求めるのか

CBAM(Carbon Border Adjustment Mechanism)は、日本語で「炭素国境調整メカニズム」と呼ばれるEUの制度です。EU域外から輸入する特定製品について、製造時に排出された炭素に応じた負担を求めます。

背景にあるのが、EU排出量取引制度「EU ETS」です。EU域内の対象企業はCO₂排出に対するコストを負担しています。一方、環境規制が比較的緩い国で生産された製品が、炭素コストをほとんど負担せずEUへ輸入されれば、EU企業の競争条件が不利になりかねません。

さらに、企業が規制の緩い国へ生産拠点を移すことで、EU域内の排出量だけが減り、世界全体では排出削減につながらない可能性もあります。こうした「カーボンリーケージ」を防ぐことがCBAMの主な目的です。

期間 CBAMの動き
2023年10月~2025年末 移行期間。対象製品の排出量などを報告
2026年1月~ 本格適用。炭素コストを伴う制度へ移行
2027年2月~ 2026年輸入分に対応するCBAM証書の購入開始
2027年9月30日 2026年輸入分の最初の年次申告・証書提出期限

「2026年から本格適用」という言葉だけを見ると、すでにCBAM証書の購入が始まっているようにも見えます。しかし、2026年輸入分の証書販売は2027年2月から開始されます。2026年は製品の輸入時期に応じた証書価格が算定され、その負担が翌年の手続きにつながる仕組みです。

どんな製品がCBAMの対象になる?

現在のCBAMは、CO₂排出量が多く、カーボンリーケージのリスクが高いと考えられる分野を中心に設計されています。すべてのEU向け輸出品が対象になるわけではありません。

鉄鋼
アルミニウム
セメント
肥料
電力
水素

ただし、「鉄を使っている製品ならすべて対象」と判断するのも正しくありません。実際の対象品目はEUの関税分類であるCNコードに基づいて決まるため、EUへ輸出している企業は自社製品のコードを確認する必要があります。

2025年に成立した簡素化ルールでは、EU側の輸入者について原則として年間50トンの基準が導入されました。年間のCBAM対象製品の輸入量が50トン未満となる事業者の多くは義務が免除されます。欧州委員会によると、この見直しで約18万2,000の輸入者が免除される一方、CBAM対象排出量の99%超は引き続き制度でカバーされる見込みです。

そのため日本企業は、自社製品だけを見るのではなく、「どの製品を、どのEU顧客が、年間どれだけ輸入しているのか」まで確認することが重要です。

日本企業が直接CBAM証書を買うわけではない

CBAMで誤解しやすいのが「日本企業がEUへ輸出すると、EUへ炭素税を直接支払う」というイメージです。

実際に認可CBAM申告者となり、排出量を申告してCBAM証書を提出するのは、原則としてEU域内の輸入者または一定の間接通関代理人です。

では、日本企業には関係がないのでしょうか。

そうではありません。EU側がCBAM申告を行うには、輸入した製品にどれだけの排出量が埋め込まれているのかを把握する必要があります。この排出量データを持っているのは、実際に製品を製造している工場です。

日本企業に起こり得る実務

  • EU顧客から製品別の排出量データを求められる
  • 製造工程や使用燃料などの情報整理が必要になる
  • 排出量算定の方法をEUルールに合わせる
  • 実排出量を使う際に検証対応が必要になる
  • 取引先との契約やデータ共有方法を見直す

つまり、CBAMの法的な申告主体と、データを準備する企業は必ずしも同じではありません。EU側の顧客から問い合わせを受けて初めて準備を始めると、工場や製品別の情報をすぐに用意できないことも考えられます。

CBAM証書はいくら?2026年の価格を確認

CBAM証書の価格は固定されているわけではありません。EU ETSの排出枠オークション価格をもとに算定されます。

2026年は四半期ごとに価格が設定されており、欧州委員会が公表した価格は次のとおりです。

対象期間 CBAM証書価格 公表日
2026年第1四半期 75.36ユーロ/t-CO₂ 2026年4月7日
2026年第2四半期 75.28ユーロ/t-CO₂ 2026年7月6日

2027年以降は四半期単位ではなく、週ごとの価格へ移行する予定です。

ただし、製品の埋め込み排出量に上記価格をそのまま掛けた全額が2026年から負担になる、と考えるのは正確ではありません。CBAMはEU ETSの無償割当の縮小と連動し、2026年から2034年にかけて段階的に炭素コストの対象を広げる設計です。

また、原産国で対象となる炭素価格をすでに負担していることを証明できれば、その分をCBAMの負担から控除できる仕組みも設けられています。

ポイント:企業が見るべきなのは現在のCBAM証書価格だけではありません。製品1トンをつくるときの排出量が大きいほど、将来的な炭素コストの影響を受けやすくなります。同じ製品でも、製造工程の排出効率によって競争条件が変わる可能性があります。

CBAMは日本企業の競争力をどう変える?

GX×ビジネス編集部では、CBAMの本質を単なる「EU向け輸出の事務負担」として捉えるべきではないと考えています。より重要なのは、製品に含まれる炭素が価格競争力の一部になることです。

低炭素な製造工程が価格差につながる

これまでは同じ品質の鉄鋼やアルミニウムであれば、価格、納期、性能などが主要な比較軸でした。CBAMではそこに、製造時の排出量という新しい要素が加わります。

再生可能エネルギーの活用、省エネ設備への更新、製造工程の改善などによって製品当たり排出量を抑えられれば、EU側の輸入者が将来負担するCBAMコストを小さくできる可能性があります。

排出量データを出せること自体が取引条件になる

製品が低炭素であっても、その排出量を正しく計算し、取引先へ伝えられなければ十分に評価されないことがあります。

営業部門だけで対応できる問題ではありません。製造、調達、環境、経理、ITなどが連携し、「どの工場で、何を使い、どれだけ生産し、どの程度排出したのか」を追跡できる体制が必要になります。

EUへ直接輸出していない企業にも影響する

日本の部品メーカーがEUへ直接製品を輸出していなくても、納入先がCBAM対象品をEUへ輸出していれば、排出量情報を求められる可能性があります。

そのためCBAM対応は「EU輸出企業だけの仕事」とは限りません。サプライチェーンをさかのぼってデータ提供を求める流れが広がれば、素材や部品を供給する企業にも対応範囲が及びます。

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日本企業が確認したいCBAM対応5ステップ

CBAM対応では、最初から複雑な排出量システムを導入するより、自社とEU市場の関係を整理するところから始める方が現実的です。

01
EU向け製品のCNコードを確認する
自社が輸出している製品が現在のCBAM対象品に含まれるかを確認します。
02
EU側の輸入者を確認する
誰が認可CBAM申告者となり、どの情報を日本側へ求めているのかを整理します。
03
製品別の排出量を把握する
工場全体の排出量だけではなく、対象製品の製造に伴う排出量を算定できるようにします。
04
取引先とデータ共有方法を決める
誰が、いつ、どの形式で排出量情報を提供するのかを事前に整理します。
05
排出削減と輸出戦略をつなげる
算定するだけで終わらせず、省エネや燃料転換などによって製品の排出原単位を下げられるか検討します。

CBAMはさらに対象が広がる可能性もある

現在の対象は鉄鋼やアルミニウムなど6分野が中心ですが、制度はこの範囲で固定されているわけではありません。

欧州委員会は2025年12月、鉄鋼やアルミニウムを多く使用する一部の川下製品などへCBAMを拡大する提案を公表しました。2026年6月にはEU理事会がこの提案について交渉方針をまとめています。

ただし、2026年8月時点では最終的な立法手続きが完了したわけではありません。現在対象外の加工品や部品メーカーが「将来もCBAMとは無関係」と決めつけず、EUの対象品目拡大を継続的に確認することが重要です。

CBAMでよくある疑問

日本企業がCBAM証書を購入する必要がありますか?

原則として、CBAM証書の購入・提出を行うのはEU側の認可CBAM申告者です。日本の製造企業がEU当局から直接証書を購入する仕組みではありません。ただし、申告に必要な製品の排出量情報をEU側の取引先へ提供することがあります。

EU向け輸出をしていなければ関係ありませんか?

直接輸出していなくても、自社の素材や部品を使った製品がEUへ輸出されていると、取引先から排出量情報を求められる可能性があります。まずは自社のサプライチェーンを確認することが重要です。

CBAMは関税と同じですか?

通常の関税とは仕組みが異なります。製品価格に一定率を掛けるのではなく、基本的には対象製品に埋め込まれた排出量とEU ETSに連動するCBAM証書価格などをもとに負担を算定します。

2026年から炭素コストを100%負担するのですか?

CBAMはEU ETSの無償割当縮小と連動して段階的に導入されます。2026年から2034年にかけて対象となる炭素コストが拡大していく設計のため、2026年からすべての埋め込み排出量に完全な負担が生じると考えるのは適切ではありません。

まとめ|「排出量を説明できる企業」がEU市場で強くなる

EUのCBAMは2026年1月から本格適用され、鉄鋼、アルミニウム、セメント、肥料、電力、水素などの対象製品に炭素コストを反映する仕組みが動き始めました。

申告やCBAM証書の取得を担うのは主にEU側の輸入者です。しかし、その申告に必要な排出量データは製造現場から提供する必要があります。このため、日本企業にも製品別の排出量算定や取引先とのデータ共有といった対応が求められます。

さらに重要なのは、CBAMを単なる「EU規制への対応費」と考えないことです。製造工程を低炭素化できれば、将来的なCBAMコストを抑え、EU顧客にとって調達しやすい製品になる可能性があります。

これからのEU市場では、品質や価格に加え、「この製品をつくるためにどれだけ炭素を排出したのか」を説明できることが競争力の一部になっていきます。まずは対象製品、EU側の輸入者、製品別排出量の3点から確認し、自社のGX投資と輸出戦略をつなげて考えることが重要です。

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参考情報

※本記事は2026年8月時点で公表されている情報をもとに作成しています。CBAMの対象製品、算定方法、証書価格、対象拡大に関する法制度は今後変更される可能性があります。実際の輸出・申告対応では、欧州委員会、経済産業省、JETROなどの最新情報をご確認ください。