朝どら『あんぱん』その後 ー中々奥深いテーマがあるー | 逆襲するさらりーまん

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ーやっとこさ 英検1級、通訳案内士試験合格。しかし、英語の道はまだまだ長い。基本的にやり直し英語+その時思うことなど。-

9月も中旬に入ったというのに、まだまだ暑い日が続いていますね。

さて、7月6日のブログで、現在放映中のNHKの朝ドラの『あんぱん』について、中々素晴らしいと書きました。その後も午前8時からの毎朝のリアルタイムでは観ていませんが、NHKの1週間分の放送を配信する『NHKプラス』を利用して、時間のある時に2話や3話まとめてですが、直近の9月12日放送の120話まで、すべての話を観続けています。

物語は戦後の昭和40年代の頃に入ってきましたが、7月6日のブログ時から今の120話までの、終戦直後の混乱期から『あんぱんまん』誕生に至るまでのやなせたかしさんと妻ののぶさんをモデルにした紆余曲折の中で、しばしば2人が『逆転しない正義』を求めるというシーンが出てきます。

実は、何が正しくて何が悪か、正か悪を決める根拠はなにか、ということは人類始まって以来の根源的、普遍的な哲学的テーマで、古代ギリシャ時代の哲学者や思想家、政治家、多方面の学者および一般大衆から現代にいたるまで、考え悩み続けられ、いまだ正解に到達していない奥深いテーマです。

『あんぱん』の中で崇とのぶは、戦争前や戦時中は日本国あるいは国体である天皇の隆盛に貢献することが正義であったのに、戦争体験を通じて、戦後にはその正義と思われてきたことが、まったく違っていたのではないか、という葛藤から『逆転しない正義』を求めるようになりましたが、その心象過程はよく理解出来ます。

正義か悪か、ということが最も明確に現れるのが、相手と対立し、相手の存在を叩き潰す行為である『戦争』であり、戦時下では、戦争相手国の敵兵を50万人倒したらそれは、自国では『正義のヒーロー、英雄』となりますが、相手国から見たら、『悪の化身』でしかありません。前にも書きましたが、アメリカでは強いこと、勝つことが正義であり、正義はかならず勝つ、という考えがあり、だからこそ、核兵器も含め、世界最強の軍隊と戦略技術を保持し続けています。しかし、戦争という行為自体が、正義か悪かのどちらかに相対するものではなく、両者とも悪である、という考えもあると考えます。(僕はこの考えを執ります。)

何が正義で、何が悪かということは、その時々の時代背景、社会状況と世相、利害関係、イデオロギーや宗教の浸透状況、科学技術の進歩状況などによって、時々にコロコロと目まぐるしく変化します。例えば、中世末のヨーロッパでは、地動説は科学的検証から正しいことであることは明白だったにも関わらず、当時のキリスト教観では、創造主である神を汚すとんでもない悪、として宗教裁判にかけられ、幾多の科学者が処刑されました。

また、戦争のような極限状態ではなくても、僕たちの日常生活を通じても、『あの時の判断や行動が正しかったのだろうか?』と後悔し、悩むことが多々あります。僕は、未だに、何十年前の過去の判断や行動に対して、『あの時は正しい判断だったのだろうか?もっとこうすればよかったのではなかったか?』とウジウジと思い悩むことが1つや2つではなく、いっぱいあります。

なにが正義で何が悪か、ということは、前述のように目まぐるしくコロコロと変化します。また人それぞれ個人個人によっても正義と悪は異なり、未だに普遍的に共有できる正解に到達していないのだとも思います。何が正義で何が悪か、ということが頻繁に変化し、人それぞれによって違うとすれば、一人一人の人生は、『自分にとって何が正義で何が悪かを模索し続ける旅』とも言えます。

『あんぱん』の崇とのぶは、戦争と戦後の紆余曲折の体験を経て、『逆転しない正義』を求めるようになり、その彼らなりの解の一つが中高年期に達した時期での『あんぱんまん』の誕生となった、と僕は感じましたので、『あんぱん』の物語には中々奥深い、普遍的なテーマがあると思います。それが視聴者の共感を生んでいるのでしょう。

出演者の演技で言えば、7月6日のブログでも触れましたように、若いころ少し演劇を齧った身から言わせていただければ、のぶとその妹2人の演技は相変わらず素晴らしいです。とくに、次女の蘭子役の河合優実さんは、僕などがどうのこうの言う前に、すでに世間で高い評価を受け、2025年度の日本アカデミー賞にて最優秀主演女優賞も獲得している、すでに実績のある実力派女優ですが、弱冠24歳にして繊細な感性と表現力を持つ、素晴らしい女優だと思います。もし仮に私が演出家であれば、真っ先に出演をお願いしたい女優です。今後、より一層女優として活躍すると思います。

もう一人挙げれば、サンリオの創業者をモデルにした八木を演じる妻夫木聡さんです。妻夫木さんといえば、2000年~2010年頃にかけて、日本を代表する典型的なモテモテイケメン俳優として、TVで見ない日はないほどでした。あまりにもイケメンとして露出が多かったために、当時僕は少し軽い印象を持っていました。若い頃イケメン俳優だった人ほど、中高年になってからも俳優を続けることは、イメージを大きく変えなければならないこともあり、かなり難しいのですが(若い頃に有名俳優だった人が、中高年になって消えていく例は多い)、妻夫木さんは15年の時を経て、渋い中年の俳優となり、大人の味のある演技をしています。

『あんぱん』はモデルとなる実在の人物は存在しますが、もちろんフィクション(創作)ですので、現実とは異なり、また朝ドラ特有の表現の限界などもありますが、番組終了まであと2週間ほど。今後どのように物語が展開するのか楽しみです。