幸子は谷崎潤一郎の最後の妻だった松子夫人がモデルです。

そうなると夫の貞之助は谷崎自身にあたりますね。

そのせいか小説を読むと他の三人の姉妹には谷崎風の冷たい視線が時おり感じられるのに対して幸子に関する記述は優しいように私には思えます。

 

例えば雪子の見合いに付添う幸子に対して美容師の井谷が思い切り地味な身なりで行くよう注意します。

それというのも過去に何度も「あの姉さんの若々しい明るい顏が、妹さんの顏を陰気に地味に見せて印象が無くなる」等と言われたことがあると。

貞之助はそのような華やかな妻を誇らしく思います。

 

妙子は丸顔で目鼻立ちがはっきり身体も固太り、雪子は一番細面でなよなよ、両方の長所を取ってひとつにしたようなのが幸子・・・と、外見に拘る谷崎らしい比較も。

 

小説の終盤、子だくさん(舞台版では男の子2人ですが小説では6人の子持ち)の長女鶴子から幸子に宛てて「肌襦袢や何か、下着類の要らないものがあれば、捨てるようなものでも女中さんにあげるようなものでも良いので廻してくれませんか」旨の手紙が書かれていて、裕福な幸子と生活に追われる鶴子との格差を感じます。

 

舞台版でも幸子はほぼ出ずっぱりですが、菊田脚本によって他の三姉妹にも十分な見せ場が与えられています。