小説の舞台は主に芦屋の分家なので原作では、長女の鶴子の登場は少ないです。
小説では始めのほうで上本町の本家から夫の転勤で東京に行ってしまうのに対して、舞台は東京についていく決心をしたところで終盤となっています。
大阪船場の商家では子供は男の子より女の子のほうが有り難がられたそうです。
男の子は聡明な子なら良いですが、とんでもない不出来な子かもしれず当たり外れが大きい。
その点、女の子なら出来の良い番頭等を選んで婿を取り、跡継ぎにできますから。
女の子が尊重されたせいか呼び名も男の子に比べて多様です。
男の子は「坊ん(ぼん)」だけなのに女の子は「娘さんor嬢さん(いとさん)」もあれば「娘さんor嬢さん(とうさん)」もあります。細雪では主に娘さん(とうさん)が使われてます。
嫁ぎ先は蒔岡の娘さん(とうさん)らしい生活が出来る相手でないと・・・等等
壮さん演じる妙子が「こいさん」なのは「小嬢さん(こいとさん)」が縮まった呼び方ですね。
小説では鶴子は姉妹の中で一番背が高く、姉妹の母親似の日本風な美人だと描かれています。
鶴子と雪子が和風で古風な美人、幸子と妙子が洋装も似合う派手な容貌です。
鶴子は長女なので婿を取り本家を継いでいます。
しきたりを重んじ、蒔岡の家名を守る使命感に満ち溢れているせいで妹達からは煙たがられる存在。
でもそれは責任感からのもので、物語が進むにつれ良き妻であり、母代わりに妹達の幸せを考える鶴子の本質が見えてきます。
旧幕時代から続いた実家が没落、自分が周囲からどんな風に思われているか分かっています(舞台版では意図せず立ち聞きする場面が何度かあり、その度に観客の笑いを誘ってました)。
それでもなんとか家名を守ろうと気を張って生きる鶴子。
舞台版の終盤「ああさぶ・・東京に行くのに風邪ひいたらあかんのに・・」という夫に「看病は私がします・・・東京に連れていっておくなはれ」という鶴子の言葉は感動的です。
鶴子にこの言葉を言わせたのは夫の彼女に対する愛と理解です。
「あれは大阪でしか咲かん花なんや・・動かしたらあかん・・」という夫に「花は実を結ぶために散るんだす」という鶴子。
この辺りの台詞は小説にはありません。
菊田一夫作の脚本は本当に素晴らしいです。