人材を人財に!とかいう経営者は多い。でも要するに、その会社で役に立ってくれる人を雇い、そして成長を続けてもらう、しかもそういう人が辞めないようにするには何をどうしたら良いのかって事を経営者は考えなければならない。とは言えそれはホントに難しい事。

先日、ある公的機関が主催したフォーラムに参加してきた。何名かの中小/零細企業の経営者も講演者、パネリストとして登壇されていた。中でも素晴らしいなぁと思ったのが、東京下町にある零細企業の2代目社長のお話。彼は28歳の時にご両親2人でやっていた小さな町工場を引き継ぐになったのだが、数々の試練を乗り越えて、今では10倍以上の規模にまで育て上げた。明るい、聡明、弁舌さわやか、情熱の塊。色んな形容の出来る方だった。

いくつも感心するエピソードを披露してくれたのだが、そのうちの2つ。

ある時、職人さんを補充しなければならなくなり、地元のハローワークに求人を依頼した。当然技術に長けた人を取りたいので、これとこれが出来る人、みたいな求人要項を作成し、まずはその通りの履歴を持っている人を雇い入れた。一応熟練工だし、作業は難なくこなしてくれる。その調子で何人か雇い入れたが、結局会社は「バラバラになってしまった」のだそうだ。社長さん曰く、年配の職人さんは特に昔からのやり方を絶対に曲げない、という負の部分がぶつかり合って、何かと言うとそんなのはおかしい、とか俺は昔からこのやり方なんだ、という事になってしまうのだそうだ。当然、職人さん同士でのいさかいも起きる。「中途で職人を雇うと言うのはこう言う事か」と途方に暮れたそうです。

そこで社長さんは方針を大転換し、新卒を含む若手未経験者を採用し、熟練の職人さんたちに育ててもらおうという事にしました。が、今度はまた別の問題が発生。

そう、昔堅気のリーダー格の職人さんは、若いお兄さん達には一切何も教えない、頑として教えないのだそうです。「俺の若いころは技なんて何年もかかって盗むもんだったんだ」の世界にどっぷりハマっているから、何を言っても教えてくれないのだそうだ。

そんなある日、様々な業務で超多忙な社長さんは、机の上で雪崩を起こしそうになっている日報をみながら、これは何とかしないといけないな、と思ったのです。で、日報を作成する従業員も、それに目を通す社長も便利なようにと、社内向けのブログを利用して、そこに業務報告を書き入れてもらう事にしたそうです。

全く意図していなかった事ながら、これが職人さんが若手に手とり足とり技術を教え出すきっかけになったというのです。からくりは簡単。年配の職人さんはITリテラシーのかけらもなく、これまでの人生でパソコンなんて全く触った事が無い人ばかりなので、パソコンの起動の仕方すらわからないのです。なので、これはもう必然的に、それまで馬鹿にして相手にしていなかった若いお兄さん達に、助けを求めなければならない。汗をかきかき、何度も何度も操作の仕方を教えてもらうしかなかったのです。そう、ここで逆転現象が起きたわけです。職人さんは教えてもらいたい人の気持ちを、そして教える方は教える時の困難さを身を持って知る事になったのです。これをきっかけに、それまで人に技術を教えるなんて経験の無い職人さんたちは若手に手とり足とり、粘り強く自分の技術を教えるようになったのだそうです。当然、互いの心理的距離もぐっと縮まり、社内の雰囲気も俄然良くなったそうです。

なるほどー。こう言う事ってあるんだなぁ、と軽い感動を覚えました。

もうひとつのエピソードは次回に。