はじめに。
このストーリーは2次元アイドルのお話です。
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あんな風に言っちゃったんだろう…
言い過ぎたってわかってる。
だけど、謝るタイミング逃してしまった。
いつもなら玄関で振り返り、【いってらっしゃいのキス】をせがむ彼なのに、今日は違った。
「行ってくる…」
そうボソッと呟いて、振り返らずに玄関を出ていった。
『あぁ、もぅ…なにやってんだろ、あたし…』
一人になって、冷静になった途端、自分のしてしまったことに嫌気がさして、涙が頬を流れた。
今日、8月16日は一年で一番大事な日なのに、あたしは彼に向かって…
『最低!信じられない!』
朝からそんな酷い言葉を投げつけてしまった。
彼には彼の言い分があるのはわかってる。
それに、彼があたし以外の女と二人きりで出かけるなんて、あり得ないって信じてるのに。
ー抱かれたい男 No.1八乙女楽 某アイドルマネージャーと熱愛か!ー
朝の芸能ニュースの見出しを見つけちゃったから、冷静でなんて、いられなかった。
彼は「誤解だから。」って言ってた。
もちろん、信じたいし、信じてる。
だけど、某アイドルのマネージャーって、IDOLiSH7マネージャーの紡さんでしょ?
目元隠してあったけど、身なりから紡さんだってわかった。
確かにね、IDOLiSH7のこと、彼は弟分のように可愛がってるし、それもあって紡さんとも交流があるのは知ってる。
それに彼はあたしのことを自分のマネージャーの姉鷺さんだけでなく、紡さんにまで紹介してくれた。
だからあたしは彼にとって、本当に特別だってわかってた。
それなのに、週刊誌の記事を鵜呑みのして、あたしは彼を責めてしまったんだ。
『今さら後悔しても遅いよ…ね、きっと。』
はぁ…と大きなため息が出た。
その時、ピコン…と音がして、誰かからのラビチャが届いたのに気づいた。
『楽さん…!?』
あたしは急いでスマホを手に取った。
だけどその相手は彼ではなく、、、
『二階堂、、さん?』
あたしは首を傾げた。
二階堂さんはIDOLiSH7のメンバーでリーダー。
それにあたしと彼の関係を知っている数少ない知り合い。
ーおはよーさん。朝から悪いね。今日、うちのヤツとランチでも行ってやってもらえる?ー
二階堂さんの言う【うちのヤツ】とは、恋人の舞さん。
舞さんとはお互い周りに話せないような彼らのことを話せる、数少ない友人だ。
二階堂さんはたぶん、いや間違いなく、あたしの心配をしてラビチャしてきたんだ。
ーおはようございます。私のことなら大丈夫なので、気にしないでいいですよ。ー
ちょっと強がりだってわかってるけど、二階堂さんや舞さんにまで心配かけられないよ。
それなのに…
ーいや実はさ、うちのヤツが八乙女にプレゼント買ったらしいから、渡したいらしいんだよね。どう?預かってもらえない?お兄さんからのお願い。ー
こんなこと言われたら、断れないじゃん。
ーわかりました。舞さんに直接、連絡させてもらいますね。ー
ーそれだと助かる。お兄さんもお仕事なんでね。ー
ーはい。二階堂さん、お仕事頑張ってくださいね。ー
ーんー、ありがとさん。じゃあ、またね。ー
二階堂さんとのラビチャ画面を消し、あたしは舞さんに連絡を取った。
そして待ち合わせの約束をして、あたしは身支度を整えて、舞さんとのランチに向かった。
ー心配する必要ないからね!大和くん言ってたよ?紡さんと八乙女さん、本当になにもないって。ー
舞さんの言葉はあたしを励ましてくれる。
でもあたしは卑屈になってしまう。
『でも楽さん、紡さんに一目惚れした過去あるんですよ?知ってました?』
ーえっ?そ、そうなの?嘘だよ、そんなの、絶対!!ー
『いや、本人に聞いたので間違いないです。』
沈黙が2人の間に流れる。
そりゃそうだよね。
せっかく励ましてくれてるのに、自分からあんなこと言っちゃったんだもん。
でも、ホントのことで。
もちろん、一目惚れってだけで、恋愛感情云々はないと言ってたけど。
わからないじゃん。
あぁ、ダメだ。
どんどん卑屈になってく。
ーとりあえずさ?八乙女さん帰ってきたら、笑顔で迎えてあげよ?ー
『…頑張っては、、、みます。』
ーそれで、ちゃんと話さなきゃダメだよ?ー
『…はい。』
そんな感じで、あたしは舞さんと二階堂さんから彼へのプレゼントを預り、スーパーに立ち寄った。
『…やっぱ、蕎麦、、、かな。』
お祝いだけど、好きなもの食べさせてあげたいし。
結局ね。
信じられないなんて、口で言ってしまったとしても、彼のことを嫌いになんてなれない。
彼の好きなものをつい選んでしまうんだから。
そしていつもより、ちょっと高級なお蕎麦と、天婦羅の材料を買って、彼の家に向かった。
そして彼の家について合鍵で玄関の扉を開けると…
「…ふたば!!」
『…えっ?』
「よかった、来てくれて。」
家の中から、彼が駆け出してきて、あたしをぎゅっと抱き締めた。
『楽、、、さん?』
「正直、今日は来てくれないんじゃないかって、不安だった。」
『…うん。』
「ちゃんと、話させて。」
『…うん。』
あたしが頷くと、彼は抱き締める腕をそっとほどいて、当たり前のようにあたしの手に持ってる荷物を受け取って、部屋の中に進んでいった。
「ひとまず、飯とか、そういうの、後でいいか?」
『うん。』
あたしが頷くと、彼はてきぱきと食材を冷蔵庫に入れて、リビングのあたしの元にやってきた。
「週刊誌の話だけど。」
『……。』
「あの日、紡といたのは事実なんだ。」
『…そっか。』
「だけど、お前が心配するようなことはなにもないから。」
『…うん、じゃあなんで、紡さんといたの?』
「…あぁ、その事なんだけど。」
彼は少し言葉を濁した。
…やっぱ、なにかあるんじゃん。
あたしは辛くなって俯いた。
するとあたしの目の前に彼が小さな箱を差し出した。
『…なに、これ?』
「プレゼント。」
『えっ?』
彼はそう言って、小さな箱をあたしの手の上にのせた。
「実はこれ買うのに紡と大神さん、あと二階堂に、も付き合ってもらったんだよ。」
『大神さんって、MEZZO"のマネージャーの?』
「そう。だから、二人でいたとか書かれた記事は嘘だから。」
『…そっか。』
「お前を驚かせたくて、あの人たちに頼った俺の軽率な行動がこんなことになるなんて、最低だよな、俺。」
彼の言葉に、あたしは小さく呟いた。
『…開けても、いい?』
「もちろん。」
あたしは薄ピンクのきれいな包装紙を丁寧に外して、中に入っている小さな箱の蓋を開けた。
『ピアス?』
「あぁ。ホントはさ、指輪とかがよかったんだけどさ。やっぱり、それは本番用に取っておきたいからさ。」
『…本、、番?』
「あぁ。今すぐってのはさ、俺の仕事柄無理だけど、そう遠くない未来に、、お前の左手の薬指につける指輪を贈りたいって思ってる。」
『楽、、さん、、、』
「泣くなって!」
『だって…だって、今日は楽さんの誕生日なんだよ?あたしがプレゼントあげる日だよ?それなのに、なんであたしに…』
「俺はいつももらってるよ、お前にたくさん。今日はそのお礼を送りたかったんだよ。」
もぉ!!!
それならそうと、言ってくれればよかったのに!!!
って、それじゃ、サプライズにならないか…
きっと楽さんは本当にあたしを驚かせたかっただけなんだ…
「…あのさ、伝えたいこと、言ってもいいか?」
『…ん?』
あたしが首を傾げると、楽さんはあたしの手をそっと握って、あたしの目をしっかり見て口を開いた。
「ごめん…」
『…。』
「いつもありがとう…」
『……。』
「…愛してる。」
そして…
彼の唇があたしの唇に重なった。
彼の想いが、強く届いた。
だから絶対、あたしは彼を信じていくんだ。
だからね?
あたしも彼に伝えたんだ。
ごめん…
いつもありがとう…
愛してる…
そして
お誕生日おめでとう…
これらもずっと傍にいさせてください…
って。
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久しぶりのお話が…
2次元の推しバースデーストーリーとか。
ホントにすみません(笑)
八乙女楽、気になるかたは検索どーぞ(笑)
ふたば。