「ねぇ。翔ちゃん?」
『んー?』
「ところで‥‥どこ行けばいい?」
彼女が運転しながら問いかけてきた。
『えっ!?』
「えっ!?」
驚くオレに驚く彼女。
……ん?
『あ、そうか。』
「そうそう。今日はね、私 運転手だから」
そうだった。
いつもはたいていオレの運転だから、うっかりしてたわ。
「今日は、翔ちゃんの行きたいとこ。何処でも行っちゃうよー‥‥」
『今日はさ?旅館、直行。』
「えっ??!!」
オレの答えに驚く彼女。
なんだよー、いいじゃねーか。
「いつものは?」
『ん?今日のスケジュールは、まず旅館に向かう。』
「スーパー緻密スケジュールじゃなくて??
旅館‥‥??もう??」
『いーから。まずは、旅館なの。』
ったく。
今回はゆっくりする旅だって、最初に話してたのになぁ?
でも、彼女はいつものアレを望んでるみたいだし。
オレはとりあえず感を出すことにした。
『ま、ず、は!だからな?』
「??‥‥はぁ~い‥‥」
首を傾げながら返事する彼女。
そんなところもかわいいんだよな。
『ふ~ふふ~ん~~♪』
「‥‥。」
『ふ~ふふ~ん~~♪』
「‥‥翔ちゃん?」
『ん~?』
「なんか‥‥いい事あるの?」
なんか気分よくなって、鼻歌が出る。
『そりゃ、おまえと旅行なんて久々だからな?』
「‥‥。そぉだけど‥‥それだけ??」
『まぁ、ね?』
「ふぅ~ん」
やっぱさ?
楽しいんだよなぁ。
夏海が隣にいるだけで、幸せ感じるしな。
『そういや、おまえ、二人で初めて行った旅行先で、なにがあったか、覚えてる?』
「初めての‥‥旅行で?」
『そ、初めての。』
「何かって‥‥何か‥‥あった??」
『おいおいおいおい!まじか!?』
なんだよー!
オレ的にはすっげー忘れらんねぇことなのに!?
「ちょっ!ちょっと待って待って。いきなりだったから‥‥もちろん覚えてるよ!
あれでしょ?アレ‥‥」
『じゃ、言ってみ?』
「えっと‥‥あっ!」
『ん?』
「あれでしょ!」
『あれって?』
慌てる彼女の答えを待つ。
「翔ちゃんが、お部屋の露天風呂で のぼせて具合悪くなったやつ!
ね!当たりでしょ~」
『‥‥そんなこともあったけどな。』
「ね~♪」
いやいや、そんな思い出じゃねぇし。
『でも、そうじゃねぇよ。もっと大事なこと。』
「 違った??じゃあ‥‥」
『‥‥うん?』
「翔ちゃんが、最後に食べようと思って残しておいた 私のフグ、食べちゃったこと?」
は、はぁ!?
そこ思い出すか?
「あれ‥‥ショックだったな‥‥」
『だーっ!もう、おまえさー!?なんで、そんなことばっかなの!?あれは謝っただろ!?』
「まぁ~ねぇ~」
なんか上からな答えをしてくる彼女。
あー、くそぉ、マジかよ!?
なんて凹んでたら……
「慌てて謝ってくれた翔ちゃんが可愛いかったから 許してあげたんだよ」
彼女の言葉に恥ずかしくなってさ。
オレは誤魔化すように問いかけた。
『っつーか、ホントにわかんねぇの?』
「えっ?あとは‥‥ぁっ‥‥。もぉ‥‥翔ちゃんのエ ッ チ‥‥///」
ん?
ちょっと待って?
もしかしたら思い出したような雰囲気がしたけど。
微妙?あってんのか?
『ふふっ、思い出した?』
「初めて‥‥お外で ちゅーした‥‥///もぉーー!!恥ずかしいじゃん」
あー、やっぱ微妙に違ったわー!!
『ぅおーーーーい!おまえさー?本気!?
もっと大事なこと、あっただろーが!!』
「へっ??だって 外でちゅーなんて、普段なら絶対ないじゃん!私、ちょっと嬉しかったんだけどな~」
そりゃね?
なかなかできることじゃねぇけどな?
まぁ、夏海がそう思ってくれてんのは、嬉しいかな。
『んじゃ、今日もしてやるよ?』
「!!!///」
ふっと笑うと、彼女が慌てたように答えた。
「‥‥予告‥‥されると‥‥///」
『ふふっ、楽しみが増えたな。』
「もぉ‥‥///」
可愛いな、マジで。
今すぐにでも、キスしたくなるわ。
でも、少し我慢な。
そしてオレは首を傾げながら、問い直した。
『っつうかさ?ホントにわかんねぇの?』
「ちゅー?」
『ちげぇよ。初めて‥‥』
「‥‥。」
沈黙する二人。
オレは彼女の言葉を待ってみた。
「初めて?‥‥翔ちゃん??」
やっぱ、わかんねーか。
オレは彼女をジッと見つめた。
『初めて、おまえから「好き」って、言われた。』
「‥‥えっ??そぉ‥‥だっけ‥‥///言ってない?その前でも」
『そうだよ!それまで1度も言ってくれてねぇし。』
「そぉ‥‥だっけ‥‥///」
あー、やっぱなー。
覚えてなかったよ。
『オレが「好き?」って聞いたら、「うん。」しか言ってくんなかったしな。』
「あぁ‥‥まぁ‥‥そんな気も‥‥」
でも、彼女の言葉に、覚えてなかったんじゃなくて……
オレの想いがそこだったことに驚いてるだけだって、わかったんだ。
「そんな事‥‥覚えてて くれたの?」
『当たり前だろ?その後、おまえからキスしてくれたしな?』
「///」
『初めてだらけ。』
なんか、あの日を思い出したら、頬が緩んでくわ。
「なんか‥‥照れるね‥‥///
なら‥‥今度は 翔ちゃんの番ね?」
『えっ!オレ!?』
「そっ!初めてだらけ‥‥してもらおっと♡」
『なっ!なに!?』
彼女が急にいたずらっ子の顔を見せる。
うっわー、マジか!?
「んふふ。なぁ~んだろね。楽しみが増えたね♡」
『うぉー!なんか、こえーな。』
「大丈夫。だって翔ちゃんが頑張ってもらう事だからね。私に 初めてを 頂戴ね♡」
『‥‥よくわかんねぇけど。頑張るわ。』
「うん」
楽しそうにしてる彼女。
ま、たまにはいっかな、そんなのも。
オレがふっと頬を緩めていると、ナビから音声が聞こえた。
ー目的地周辺です。ー
「あっ。目的地って あれかな??」
『お、そうみたいだな。』
海の側にあって、ちょっと特別な雰囲気の宿。
今回、ここの宿にした理由はもちろんちゃんとある。
夏海、喜んでくれるといいな。
「はぁ~!!着いたね~お疲れ様。翔ちゃん」
『運転、お疲れさん。』
「どういたしまして♡」
『ありがとな。』
「ふふっ」
自分と彼女の荷物を持って、オレは先に宿に足を踏み入れた。
ーいらっしゃいませー
ーお待ちしておりました。ー
『どーも。よろしくお願いします。』
ー‥‥では。お部屋へご案内いたします。ー
落ちついた趣のある内装に、ホッとする。
彼女の好きそうな雰囲気だ。
「翔ちゃん‥‥素敵な旅館だね。雑誌で見るよりも、素敵。」
『そうだな。』
やっぱ、この宿にしてよかった。
これからの時間が、あったかくて、幸せなものになるって確信がした。