こぢこぢのフリータイム-2013010910390000.jpg


久しぶりのベッドで眠り、回復魔法と食事を取ったおかげで、魔法使いの容態はかなり良くなった。
村長から近くの街までの距離を聞く。
次の街まで早くて10日。今の私たちには絶望的な距離だ。
勇者と戦士と相談し、魔法使いには内緒にしようという事になった。


山道を黙々と進む。魔法使いの顔色はかなり悪い。
大丈夫と微笑む彼女を見ていると、涙が出そうになる。


小さな泉を見つけた。
子供のようにはしゃいで、水を思いっきり飲んだ。
幸せだ。神よ、ありがとうございます。


しばらく、この泉を拠点として行動する。
魔法使いは休ませ、二人一組の行動だ。
心の余裕が出てきたのか、勇者はずっと笑顔だ。
彼が笑顔だと私も笑顔になる。


それなりの食料を集め、水も補給した。
計算したところ、次の街までは後6日ほどか。
魔法使いの回復を待ち、出発することにする。


旅は順調。最近は魔物の味にも慣れてきた。


遠くに街が見えた。あと少しだ。
残った食料を使い、少しだけ豪勢な食事をした。
みんな笑顔だ。

街に入るのを断られた。
泣きながら私たちに謝罪する勇者の言葉が胸に響く。
彼は悪くない。街の人々も悪くない。
悪くない悪くない悪くない悪くない。
あの泉まで戻るか、先に進むか。
この選択肢を間違えたら、私たちは死ぬのだろう。
どこか達観している自分がいた。


勇者は先へ進むことを選択した。


自分の身体が自分の身体と思えない。
脚が重い。空腹と喉の渇きが酷い。
この辺りの魔物は毒性が強く、食べられないようだ。


魔法使いが倒れた。
戦士が背負って進む。私たちは進む。


喉が乾いた。


水。


みず


商隊が通りがかった。
彼らは、食料を求める私たちに、城一つ買えるような金額を提示してきた。
きっと多分、彼らは魔物なのだろう。
魔物だ。これは魔物が持っていた食料なのだ。

魔物の血の匂いが身体から取れない。
神よ、我らを救い給え。

魔物の商隊から奪った地図によると、近い街までどうにか行けそうだった。
今の私たちには、魔物の商隊が使っていた馬車もある。
これも神の思し召しか。


街の近くに馬車を停める。
馬車は魔物の血で汚れている為、余計な不安を与える必要もないだろう。
今夜はここで野宿だ。


商人の一団だと偽り、警備の兵へ僅かな金銭を与え、街へと入る事ができた。
今後はこうやって街や村へは入ることになるのだろう。
温かいベッドで眠り、美味しい食べ物を食べているのに、何故か涙が頬を伝う。


洗っても洗っても魔物の血の匂いが取れない。
魔法使いはずっと泣いている。
みんな眠れないのか、目の下のクマが酷い。


数日、街へ滞在を続けようと思う。
眠れないのもきっと今だけだ。
血の匂いが取れないのもきっと今だけだ。
忘れろ。忘れろ。忘れろ。忘れろ。
弱くてごめんなさい。

勇者が奇妙な葉巻を吸うようになっていた。
吸うとよく眠れるそうだ。
私も吸いたいと言うと、勇者が悲しそうな顔をしたのでやめておくことにした。
眠れないのは辛いが、彼に嫌われるのは耐えられない。


勇者が明るい顔で移動魔法を覚えたと言った。
これで食料と水の問題はかなり緩和される。
神は我らを見放してはいなかった。


悪夢は見るものの、どうにか眠れるようになってきた。
時間とは神の与えてくれた免罪符なのかもしれない。


勇者が旅の再開をみんなに伝えた。
正直、気が進まない。だが、彼は勇者だ。私たちのリーダーだ。
戦士や魔法使いも不満はあったようだが、結局、明日出発することになった。


荷物をまとめ、出発の準備をしていた際、随分と荷物が減っていることに気付いた。
その減っている荷物の中に、勇者が大事にしていたいくつかの品が無いことにも気付いた。
彼に言うと、困ったような顔で「無くした」と呟いた。
ようやく私はわかった。
本当の商人でもない私達が、長期にわたって街に滞在するという事の現実を。
金銭は無限ではないことを。