
久しぶりのベッドで眠り、回復魔法と食事を取ったおかげで、魔法使いの容態はかなり良くなった。
村長から近くの街までの距離を聞く。
次の街まで早くて10日。今の私たちには絶望的な距離だ。
勇者と戦士と相談し、魔法使いには内緒にしようという事になった。
山道を黙々と進む。魔法使いの顔色はかなり悪い。
大丈夫と微笑む彼女を見ていると、涙が出そうになる。
小さな泉を見つけた。
子供のようにはしゃいで、水を思いっきり飲んだ。
幸せだ。神よ、ありがとうございます。
しばらく、この泉を拠点として行動する。
魔法使いは休ませ、二人一組の行動だ。
心の余裕が出てきたのか、勇者はずっと笑顔だ。
彼が笑顔だと私も笑顔になる。
それなりの食料を集め、水も補給した。
計算したところ、次の街までは後6日ほどか。
魔法使いの回復を待ち、出発することにする。
旅は順調。最近は魔物の味にも慣れてきた。
遠くに街が見えた。あと少しだ。
残った食料を使い、少しだけ豪勢な食事をした。
みんな笑顔だ。
街に入るのを断られた。
泣きながら私たちに謝罪する勇者の言葉が胸に響く。
彼は悪くない。街の人々も悪くない。
悪くない悪くない悪くない悪くない。
あの泉まで戻るか、先に進むか。
この選択肢を間違えたら、私たちは死ぬのだろう。
どこか達観している自分がいた。
勇者は先へ進むことを選択した。
自分の身体が自分の身体と思えない。
脚が重い。空腹と喉の渇きが酷い。
この辺りの魔物は毒性が強く、食べられないようだ。
魔法使いが倒れた。
戦士が背負って進む。私たちは進む。
喉が乾いた。
水。
みず
商隊が通りがかった。
彼らは、食料を求める私たちに、城一つ買えるような金額を提示してきた。
きっと多分、彼らは魔物なのだろう。
魔物だ。これは魔物が持っていた食料なのだ。
魔物の血の匂いが身体から取れない。
神よ、我らを救い給え。
魔物の商隊から奪った地図によると、近い街までどうにか行けそうだった。
今の私たちには、魔物の商隊が使っていた馬車もある。
これも神の思し召しか。
街の近くに馬車を停める。
馬車は魔物の血で汚れている為、余計な不安を与える必要もないだろう。
今夜はここで野宿だ。
商人の一団だと偽り、警備の兵へ僅かな金銭を与え、街へと入る事ができた。
今後はこうやって街や村へは入ることになるのだろう。
温かいベッドで眠り、美味しい食べ物を食べているのに、何故か涙が頬を伝う。
洗っても洗っても魔物の血の匂いが取れない。
魔法使いはずっと泣いている。
みんな眠れないのか、目の下のクマが酷い。
数日、街へ滞在を続けようと思う。
眠れないのもきっと今だけだ。
血の匂いが取れないのもきっと今だけだ。
忘れろ。忘れろ。忘れろ。忘れろ。
弱くてごめんなさい。
勇者が奇妙な葉巻を吸うようになっていた。
吸うとよく眠れるそうだ。
私も吸いたいと言うと、勇者が悲しそうな顔をしたのでやめておくことにした。
眠れないのは辛いが、彼に嫌われるのは耐えられない。
勇者が明るい顔で移動魔法を覚えたと言った。
これで食料と水の問題はかなり緩和される。
神は我らを見放してはいなかった。
悪夢は見るものの、どうにか眠れるようになってきた。
時間とは神の与えてくれた免罪符なのかもしれない。
勇者が旅の再開をみんなに伝えた。
正直、気が進まない。だが、彼は勇者だ。私たちのリーダーだ。
戦士や魔法使いも不満はあったようだが、結局、明日出発することになった。
荷物をまとめ、出発の準備をしていた際、随分と荷物が減っていることに気付いた。
その減っている荷物の中に、勇者が大事にしていたいくつかの品が無いことにも気付いた。
彼に言うと、困ったような顔で「無くした」と呟いた。
ようやく私はわかった。
本当の商人でもない私達が、長期にわたって街に滞在するという事の現実を。
金銭は無限ではないことを。