No.105 2022.8.28(日)

硝子の塔の殺人/知念実希人/実業之日本社/2021.8.10 第1刷 1800+10%

 2021年度本屋大賞8位作品。

 実は〈本格ミステリ〉の巨匠お二人、島田荘司と綾辻行人が表紙の帯分に麗々しく推薦文を掲げ、さらに後帯にも有栖川有栖他麗麗たる本格ミステリの巨人たちが推薦文を寄せているので、かなり気合を入れて読む。

 評価はいずれにせよ確かに読後感は島田荘司&綾辻行人の言っているようなびっくり感があって楽しめた。

 

 本格ミステリがどんなものか未だに周辺をウロチョロしているような半端な状態なので、大雑把で適当に読んでいる可能性が高い。それでも、一応「名探偵みなを集めてさてといい」的なモノはわかっているような気もする。生半可な知識は碌に役にも立たないのだが。

 

 閉ざされた雪の山荘。

 このパターンは名作が多いそうだ。というのも、色々と読んではいるのだが、その「名作であるべき要件」がピンときていないのでかなりの冊数読んでいても、本来の作家の意図をどれほど理解しているものやら。

 人里から遠く離れた山の中に建てられた「硝子の塔」。そこに住む大金持ちの科学者で本格ミステリの蒐集家でもあり、さらに自らも習作に取り掛かる意思を持っている主人が、重大な発表があると集めたゲストたち。

 医師・刑事・霊能者・小説家・料理人、そして名探偵。

 冒頭から緊張感が高まり、これは叙述トリック系なのかと思いきや……。いきなり始まる「犯人による探偵役」。劇中劇のメタファー。闇に隠された硝子の塔の罪。

 判然としない現実の境界の中で、探偵とワトソン役に名乗り出た毒殺犯人は全ての「密室」の謎を解き明かすことが出来るのだろうか。

 

 ラスト100頁の恐怖は、読み終えてしばらくしてから不意に心臓をグイッと鷲掴みされるような恐怖をもたらす。

 島田荘司の言う「新しい時代の」ミステリーの幕開けなのかも知れない。

 この衝撃は結構後を引く気がするのだ。

 

—内容紹介を引く……

500ページ、一気読み! 知念実希人の新たな代表作誕生

作家デビュー10年 実業之日本社創業125年記念作品

 雪深き森で、燦然と輝く、硝子の塔。地上11階、地下1階、唯一無二の美しく巨大な尖塔だ。ミステリを愛する大富豪の呼びかけで、刑事、霊能力者、小説家、料理人など、一癖も二癖もあるゲストたちが招かれた。この館で次々と惨劇が起こる。館の主人が毒殺され、ダイニングでは火事が起き血塗れの遺体が。さらに、血文字で記された十三年前の事件……。謎を追うのは名探偵・碧月夜と医師・一条遊馬。

 散りばめられた伏線、読者への挑戦状、圧倒的リーダビリティ、そして、驚愕のラスト。著者初の本格ミステリ長編、大本命!『硝子の塔の殺人』刊行に寄せて 島田荘司……。

 

巨匠二人の言葉を引く……

 ミステリを愛するすべての人へ 当作の完成度は、一斉を風靡した

 わが「新本格」時代のクライマックスであり、フィナーレを感じさせる。今後このフィールドから、これを超える作が現れることはないだろう。

島田荘司

 

 ああびっくりした、としか云いようがない。これは僕の、多分に特権的な驚きでもあって、そのぶん戸惑いも禁じえないのだが……。ともあれ皆様、怪しい「館」にはご用心!

綾辻行人

 

 怪しい「館」と綾辻行人に言われているのは、なんにしても愉快ではある。

 ただ一点、どうしても本格ミステリに疑問があるのだが。

 【どうして、本当に崖崩れで道路が塞がっていると、言葉で言われただけで信用して】しまうのか。というのも、その時点ではまだ行動を確かめる余裕があったはずだからだ。つまり現場に実際に観に行けよ。これが気になって気になって仕方がない。これもまた「本格ミステリのお約束」であるのだろうが、実に納得がいかない気がする。確かに外は吹雪なのは理解できる。その先にもう一歩踏み込んで状況を知らせて欲しかったのだが。

 

 もう一つは、暮の「本格ミステリ倶楽部」の大賞にノミネートもされていないというのが、実に不可解だ。本格の新規軸と持ち上げておいて、賞には全く絡まない、ということがあってよいものだろうか。実に不思議なのだ。