No.073 2022.6.18(土)

431秒後の殺人 京都辻占探偵六角/床品美帆/東京創元社/2022.4.28 第1刷 1800+10%

 出だしの京極堂を彷彿させる設定でニヤリとした以外は、取っつきははっきり言ってあまり良くなくて、まずいなこれは途中で投げ出すパターンかも知れないと言う危惧を持ってしまったが作者の狙いが天才肌の探偵と、事件を持ってくる気の良い探偵助手が有栖川有栖の創出したコンビ的な主人公たちが「どうやって犯罪を犯したか」、所謂犯行方法を開明する事で事件を解決する作品群だと言う事に気付くと一気に物語世界に入り込む。

 

 京都の路地裏にひっそり存在する「法衣屋」。若い主人六角聡明。バタバタ駆け回るカメラマンの安見直行が持ち込む事件を嫌がりながらも解決していく。

 表題作「431秒後の殺人」/写真の楽しさを教えてくれた恩人である叔父の死に疑問を持った安見が祖母に教えて貰った辻占いを訪ねる。どうやって叔父は殺害されたのか…。六角の結論は…。

 睨み目の穴蔵の殺人/京都の大学を卒業した仲間たちが久しぶりに集まったのは、襖絵の眼が動くと噂になったカプセルホテル。そこで起きた殺害は、安見がカメラを構えている目の前でだった!!どうやって!?

 眠れる映画館の殺人/たった5人しか入ってなかった映画館の中で起こった殺人事件。不可能犯罪なのか。衆人環視の中での出来事を六角が鮮やかに解決する。殺害方法の突飛さがビックリ。

 立ち消える死者の殺人/14年前に入院していた病院から一日退院の朝に失踪したのは、六角の母頼子。同室の患者一人が亡くなり、騒ぎが治まった後に頼子の姿が消えたことに看護師が気付く。そして、失踪から3年後頼子のサインと印鑑が押された連帯保証人の書類が六角の店を競売の瀬戸際に。密室だった病院からどうやって消えたのか……真相は……安見は六角を救えるのか?

 個人的にはこの作品がとても気に入った。犯人像の驚愕もあるが、どうやって消えたのかが非常に整理されていて楽しめる。なんだか実際にありそうな話でもあった。

 

 収録作がとても寝られていて読んでいて楽しい。秀作。

 

—内容紹介を引く……

「あんた、失せ物を探して欲しいんやろ?犯罪者を刑務所にぶちこめる証拠を」

“辻占”で失せ物を探し当てる名探偵と助手が挑む古都・京都の21世紀型不可能犯罪!

 第16回ミステリーズ!新人賞受賞作家による全編ハウダニットのデビュー作

写真を撮る楽しみを教えてくれた、松原京介の不可解な死。離婚話で揉めていた彼の妻は、関与が疑われたものの、死亡時刻にはタクシーに乗っていた。どこをどう見ても、不運な事故としか考えられない状況だったがー恩人の死をその妻の仕業と確信した駆け出しカメラマンの安見直行は、祖母の助言によって六角法衣店を訪れる。店の主は代々京の辻や橋に立ち、道のさざめきから神託を受け、失せ物を見つけ出すことができるというのだ。直行は恩人の死亡事故を他殺と証明する証拠を探して欲しいと依頼するが、若くて無愛想な店主・六角聡明からは、けんもほろろに断られてしまう。だが、直行の撮った一枚の写真がきっかけで、六角は事件の証拠探しに協力を約束する。現代のガジェットによって構成された不可能犯罪を、緻密な論証で見事に解き明かす表題作ほか全5編を収録。第16回ミステリーズ!新人賞受賞者による出色のデビュー連作集。

 収録作は……

 431秒後の殺人/睨み目の穴蔵の殺人/眠れる映画館の殺人/照明されない白刃の殺人/立ち消える死者の殺人

 

 新人作家とは思えないほどゆったりとした節回しの連作短編集。これは癖になるかも知れない。新人とは思えない落ち着いたハウダニットが素晴らしい。

 床品美帆(ゆかしなみほ)さんは、1987年大阪府生まれ。同志社大学卒。2017年、「赤羽猫の怪」が第15回北区内田康夫ミステリー文学賞区長賞を受賞。18年、『レッドカサブランカ』が第28回鮎川哲也賞最終候補に、「ROKKAKU」が第15回ミステリーズ!新人賞最終候補となる。翌年「ツマビラカー保健室の不思議な先生」で第16回ミステリーズ!新人賞を受賞(受賞後、「二万人の目撃者」に改題)している。

 ★★★★1/2