No.117 2022.9.17(土)

神々の歩法/宮澤伊織/東京創元社/2022.6.30 第1刷 1800+10%

 これはいったいどうした事か。最初の一ページに目が釘付けになった後はページを捲る手が止まらない。いや止められないのだ。久しぶりに味わうハードスーパーSFの濃さにドキドキしつつ時間を忘れて読み耽る。食事もすっ飛ばして……。

 

 ……西暦2030年 中華人民共和国 河北省……北京が棄てられて、一年にも満たない。だが!今やこの地の住民は、乾いた風と砂のみである。……

 

 降り立った兵員の外見描写があり、彼らは戦闘に特化して産み出された「二本の足で歩く古代の甲冑魚を思わせる。頭部の形状にも人間の面影は残っていない」サイボーグ。

 ウォーボーグ。全身を徹底的にチューンアップした「戦争サイボーグ」。

 隊長のオブライエンを中心としたウォーボーグがやってきたのは、一人の「ウクライナ人農夫」のためだった!!

 

 全四編に流れる激しい戦闘は、ウォーボーグ達と魚座で起きた超新星爆発で飛散し地球に墜ちてきた(まさに落下)地球外生命体に憑依された「神」との戦いだった。

 オブライエン少佐達の味方に付いたチェコ人の元は八歳の憑依体になり憑依した「船長」によってミドルティーンに無理やり成長させられたアントニーナ・クラメリウス=ニーナ。

 ニーナが戦闘に勝つことで「友だち」にした「死の聖母サンタ・ムエルテ」のメキシコ人カミラ。

 CIAの工作担当マッケイ。

 

 マッケイが常に指示する「わたしのチーム」、ウォーボーグとニーナそれにカミラ。

 彼らの任務は「神殺し」だった。

 

 もっとも印象の残ったのは、戦闘サイボーグたち。彼らは人間の感情をもった異形の改造人間。ニーナとオブライエン少佐たちの掛け合いもしみじみ楽しい。いや、楽しんではいけないのかも知れないが、人間であることと改造されて戦争に投入されることしか生きる意味のない存在と、本来はまだ8歳の女の子が宇宙から飛んできた憑依体に憑依され〈地球を守る=人間を守る〉事に駆り出される事の《異常さ》が際立つメンバー構成が泣かせるのだ。

 

 いわゆる「ハードSF」には欠かせない戦闘シーンの激しさもきちんと描かれ、さらに言えばそこから導かれる「死」の概念が胸を突く。好きで〈神〉に憑依されたわけではない。結果として愛する家族を……。

 

 一筋縄ではいかない展開は息もつかせない。憑依体と戦うためのステップ。神々の歩法をマスターした時、ウォーボーグ達は新たな闘いへと赴くのだ。

 

—内容紹介を引く……

 彼らの敵は人ではない。……ある種の神だ。戦闘サイボーグ部隊vs.高次元生命体が憑依した超人。

 第6回創元SF短編賞受賞作にはじまるアクションSF連作長編。

 〈裏世界ピクニック〉の著者、もう一つの代表作!

 その男は北京の空高く浮かび、ステップを踏んだ。力強く、優美な、狂気を秘めた舞い。そのたびに戦闘機は墜とされ、地上には深々と炎が刻印される。かくしてユーラシアは滅び去ろうとしていた。……西暦2030年、砂に埋もれ廃墟と化した北京へ、米軍の戦争サイボーグ部隊の精鋭12名が突入した。この神のごとき超人、エフゲニー・ウルマノフを倒すために。

 第6回創元SF短編賞受賞作収録。『裏世界ピクニック』の著者による本格的アクションSF、ついに書籍化。

 

 ザックリした内容は……

 神々の歩法……北京を廃墟にした“憑依体”に苦戦する戦争サイボーグ部隊の眼前に、一人の少女が現れた。第六回創元SF短編賞受賞作。

 草原のサンタ・ムエルテ……部隊に合流した少女が、突如姿を消した。第二の憑依体が出現したのだ。それも日本の岩手県に。

 エレファントな宇宙……アフリカのコンゴ共和国に異状が察知された。部隊は高次元生命体を迎え撃つべく、世界第二の大河を下る。

 レッド・ムーン・ライジング……CIAのマッケイのもとにサイボーグ部隊から「UFOを見た」と連絡が入る。新たな憑依体の出現か、それとも…。

 

 全部好きなのだが、個人的にどうしても最後の「レッド・ムーン・ライジング」が気になって気になって。この展開は本当に好きなのだとつくづく思う。言ってみれば全てのSF要素を突っ込んだ神の領域への挑戦、とも読めてくるのだ。

 

 著者の宮澤伊織(ミヤザワイオリは秋田県出身。2011年、『僕の魔剣が、うるさい件について』でデビュー。冒険企画局に所属し、テーブルトークRPGやアニメの企画協力なども手掛ける。20152年、本書の第一話となる作品で第6回創元SF短編賞を受賞している。目を離さないクリエイターの一人だろう。

 あとがきとしての作者の解題が面白い。本編をじっくり読んでから、解説を読み感動に浸るのも一興だろう。傑作!!

 ★★★★★