No.056 2022.5.15(日)

小さき王たち 第一部濁流/堂場瞬一/早川書房/2022.4.25 第1刷 1900+10%

 ……新聞記者と政治家。二つの家系の物語を壮大に描く、大河政治マスコミ小説の新たな金字塔……

 

 後半の怒濤の展開を予感させるような日本海に座礁し大量の原油を撒き散らし新潟の海を覆い尽くす黒い臭気の激しい風景が冒頭。

 国会議員選挙を目前にした新潟市で再会した幼馴染みの仲の良かった二人の前に拡がる道は、大きく左右に別れていたのだった。

 

 元新聞記者の作家が満を持して書き始めた『新聞と政治』の攻めぎ合い。戦後の混乱から立ち直り日本は高度成長期にかかろうとしていた頃。沖縄の本土復帰直前、日本と中国の国交正常化が静かに進んでいた混沌と発展の時代。

 そこから始まる壮大な『新聞と政治』の闘いは、前哨戦の選挙を巡る選挙違反事件を端緒に走り始める。

 

 新聞の没落が言われている現代にあって、マスコミ報道のあり方さえ根本的に変わってきている。

発行部数激減は、新聞を読まない世代を発現させている。ネットニュースの台頭、そして何が正しいニュースなのか混沌とした垂れ流し状態の世に溢れた『ニュース報道』。

 政治は世間からそっぽをむかれ、投票率は下がり続けてしまい「どうせ自分が投票行かなくても」の構造に陥り抜け出す事も出来ない現代。

 

 そんな時代に警鐘を鳴らすことが出来るのか。

 

 本書に描かれた「田舎の選挙」が金まみれであることは衆知の事実だった時代に、正義のペンは不正を正せたのか。

 作家の思いが迸る第一部に、真の報道と政治の在り方を考えるきっかけになって欲しいと言う願いがあるのかも知れない。

 

 これからの物語によっては一大叙事詩になる予感を持つ作品か。

 

—内容紹介を引く……

 高度経済成長下、日本の都市政策に転換期が訪れていた1971年12月。衆議院選挙目前に、新潟支局赴任中の若き新聞記者・高樹治郎は、幼馴染みの田岡総司と再会する。田岡は新潟選出の与党政調会長を父に持ち、今はその秘書として地元の選挙応援に来ていた。彼らはそれぞれの仕事で上を目指そうと誓い合う。だが、選挙に勝つために清濁併せ呑む覚悟の田岡と、不正を許さずスクープを狙う高樹、友人だった二人の道は大きく分かれようとしていた…大河政治マスコミ小説三部作開幕!

 

 それにしても、この時代の新聞は熱があった。今の「単なる警察や官庁の発表機関」ではない、取材し裏取りし政治の監視機関の誇りがあったのだろうと思う。情けない新聞は読む価値もない、と社会に言わせない力があったような気がするのだがどうだろう。

 ★★★★1/2