No.053 2022.5.8(日)
アキレウスの背中/長浦京/文藝春秋/2022.2.10 第1刷 1800+10%
面白い。何がなんだか分からないが。一気に読めるので面白いんだろうという事で消極的な理由なのだが。
2023年1月に始まり3月のマラソンレースを頂点に5月まで、警視庁の各部署から集められたタスクフォース・MITの活躍を描くサスペンス&警察小説。
堂場瞬一の描く『ボーダーズ』とものすごく被るような設定で思わず「最近の流行か?」とビックリしながら読む。両者の違いはあまり感じられないままだったのがかなり微妙ではあるが。
チームの面々母と…
主人公と下水流悠宇(おりづるゆう)警部補。警視庁捜査三課出身。29歳。特技日本舞踊・フェンシング元オリンピック強化選手。
間明(まぎら)警部補。係長。悠宇の上司で情報を集める。45歳。実は隠れキャラ的な存在になる。
本庶譲。特殊犯捜査二係。28歳。悠宇の一つ下、明治大学の後輩になる。
乾徳秋。警察庁警備局参事官。指揮官。
二瓶茜。34歳、既婚。警察庁出向、警備局運用部。
板東隆信。31歳。警視庁警備部警護課。機動隊出身。
ゲストスターは嶺川蒼(みねかわあおい)。男子マラソン日本記録保持者。嶺川と下水流との間に流れるアスリート独特の友情は、非常によく理解できる。特に怪我で競技生活を辞めなければならなくなる辛さ、切なさは身に沁みるのだ。だからこそラストシーンで涙が滲んでしまう。
中途半端な競技生活ではない。オリンピック候補になるほどの選手ならば、このラストはじっとしていられないかも知れない。この点も、実は堂場瞬一のマラソン物と被ってしまい、残念ではあったが……。
物語を少し。
マラソンレースを公営ギャンブルの対象に世界的な展開が計画され、その第1回が東京で実施される。
開催を妨害し莫大な利益がもたらされる開催国に入らなかった中国が、世界的スポーツ用具メーカーが、日本開催の失敗を計画している情報に基づいて召集されたチームが乾参事官の指揮の下で阻止する、と言うようなストーリー。
まあそんなバックボーンが計画されるのかと言う疑問はさておき確かに覇権主義を前面に打ち出している中国ならばやりかねないかもと半信半疑ながらの展開はある。
用具メーカーにしても、大会を失敗させてまで自社製品の市場規模拡大を計ろうとするだろうかの疑問もさておき。
そんなこんなで物語そのものはかなり眉唾(本当にあるのかと読者に思わせるのも作家の仕事なのだが)に近い。
それよりも本作は、一人の若い女性警官が紆余曲折の末に自分の進むべき道を見つける物語だとすんなり思って読むのが正解か。
仲間との交流から自分自身への葛藤や親と子の関係まで含めての成長物語として楽しむべきか。
—内容紹介を引く……
スポーツビジネスをめぐる利権と国家の威信が、東京でぶつかり合う。公営ギャンブル対象として、世界5カ国で開催されるマラソンレースの東京大会を妨害すべく、国際テロリスト集団が襲撃を仕掛けてきた。標的は日本人最速ランナーと、ランニングギアの開発をめぐる機密情報。警察庁は極秘に、特別編成の組織横断チームMITを立ち上げた。そのリーダーに抜擢された女性刑事は、アスリートを守れるのか。ランナーが、2時間切りという壁の向こうに見たものとは……。
とは言えどうも肝心要のサスペンスとなるとなんとなく中途半端な印象があるのは、大前提としての「レースの妨害」にあまり真実味が無いことか。大掛かりな仕掛けの割には盛り上がりに欠けるような微妙な後味の悪さを感じてしまったのは残念だ。
余談だが、MITというとどうしてもマサチューセッツ工科大学……となってしまって困惑。
★★★★