No.163 2022.12.18(日)

水 本の小説/北村薫/新潮社/2022.11.30 第1刷 1750+10%

 なるほど〈本の私小説〉だ。〈本〉を題材にしたエッセイであり、その作家に纏わる謎を追うミステリーでもある。

 特に好きな作家の小林信彦「悪魔の下回り」に関する考察には、思わずそうかそういうことかと膝を打つ(と言うような表現はもう見掛けることもなくなった)。

 こんなファン以外には、たぶんあまりメジャーではないようなコアな話題がたまらないのだ。

 

 明治大正昭和と生きた作家達が遺した作品が、今でも手に取る事が出来る。出版物としての文化の継承がキチンと出来ている事に感動するのだ。

 

 本を読まない文化。それが次第に当然のようになっている現状がとても酷いと言うことにそろそろ気が付かないと手遅れになる。そう、文化の断絶の恐れなのだ。

 

 それにしても、ここに掲載された「いろはカルタ」。ハッキリ言って殆ど見当も付かない体たらくは我ながら嘆かわしい限りだ。

 

 大辻司郎のギャグに記憶があったのは、それくらい有名だったのか、それとも暇な子供だったからか。とても同時代に見られた筈も無いのに、記憶だけはあるのは不思議だ。謎が謎を呼ぶのだ。

 

—内容紹介を……

 本を愛する作家が、言葉と物語の発する光を掬いとり、その輝きを伝える7篇。懐かしくて新しい物語の言葉が、映像や詩や短歌、歌のことばに結び合わされて光を放ち、豊かに輝き出す。向田邦子、隆慶一郎、山川静夫、遠藤周作、小林信彦、橋本治、庄野潤三、岸田今日子、エラリー・クイーン、芥川龍之介……思いがけなく繋がっていく面白さ。本の達人ならではの探索と発見が胸を打つ〈本の私小説〉。

 目次……手/○(まる)/糸/湯/ゴ/札(ふだ)/水

 

 北村薫さんは1949年埼玉県生まれなのでもう大御所になっているのか。早稲田大学ではミステリクラブに所属。89年、「覆面作家」として『空飛ぶ馬』でデビュー。91年『夜の蝉』で日本推理作家協会賞を受賞。小説に『ニッポン硬貨の謎』(本格ミステリ大賞評論・研究部門受賞)『鷺と雪』(直木三十五賞受賞)などがある。2016年日本ミステリー文学大賞受賞。

 

 北村さんといえば、デビューした当時の「女性作家では?」の静かな論争(?)が懐かしい。国語の先生だったと思うが高校生に教えてさらに小説を書いていたという今思えばスーパーマンのような作家の走りかも知れない。

 ★★★★1/2