No.162 2021.12.24(金)

新しい星/彩瀬まる/文藝春秋/2021.11.25 第1刷 1500+10%

 これは間違いなく恐ろしい程強く、読む者を捉えて話さない物語だ。それぞれ独立したエピソードの積み上げのようであり、大きな人生の流れを、それぞれの狭い手漕ぎボートで進んでいこうとする4人の同期で合気道部の仲間だった男女の交差する生き方を描いた未来小説である。

 『再生』と『消滅』。生きる為にもがく4人の激しく流れる十年間。

 結婚しようやく出来て赤ん坊は未熟児で生まれわずか2ヶ月で亡くなる。その娘の存在を自分の中に取り入れる事で、夫と別の人生を選び新しい一歩を踏み出そうとする森崎青子…あおさん。

 大学卒業後に勤め始めた会社で謂れの無いレッテルを貼られ退職、長い間家から出ない引きこもりになってしまった安堂玄也…ゲンゲン…。卒業後付き合いの途切れていた同期の仲間から、合気道の道場へ誘われる。そこで貰ったタコが彼を新しい一歩へと促す。

 合気道部の主将で面倒見のいい、会社でも評価を得ている花田卓馬…主将…は、結婚後も順調に家庭にも恵まれた。しかし、新型ウイルスの蔓延で妻は第二子を出産の為に実家へ、そのまま東京に戻らないと告げる。

 副主将だった大橋茅乃=旧姓・日野原…かやのん…は、娘の奈緒が5歳の時に乳ガンを患い闘病。小学6年生の時に再発し厳しい状況でも頑張って生きる。

 

 4人、それぞれの10年。それは、茅乃が闘病した10年間だった。

 娘の奈緒が高校に入る頃、この世を去った茅乃を見送る3人の姿が胸に迫る。

 思わず込み上げる涙に噎せそうになるほど、激しく体全体を震わせられる。

 そして、残された3人もまた激しく揺さぶられる年月を過ごし、それでも一歩ずつ前に進んでいるのだ。

 

 ラストの玄也と茅乃の遺児奈緒の下りで、もう我慢できずに流れる涙に溺れる。

 『学校でも、家でも、大人になってからでも、なにか困ったとか、手を貸してほしいことがあったら言ってください。どうしたら奈緒さんが楽になるだろうって、一緒に考えます。俺ができることは俺が、俺ができないことでも、俺より……俺とは、違うタイプの生き方をしてきた大人が、あと二人いるから。きっと誰かは、役に立てると思う。迷わないで、なんでも言って』奈緒は答える。

 『あなたは生涯を通じてけっして一人にはならない。って。何回も、念を押すみたいに言ってた。あのひとの言うことを、本当にしてくれてありがとう』

 

 再生の物語は、新しい星を得て道を見いだしていく。傑作。

 第166回直木三十五賞候補作。

 

 泣きました。静かに。込み上げる想いがラストのゲンゲンと奈緒のシーン。一人涙を流しました。奈緒と一緒に泣き笑いしながら。この方の良い読者ではなかった事を今日ほど後悔した瞬間は無い。時は本人と関係なく淡々と流れ去る。楽しい辛い哀しいも全部包み込み流れる河だ。傑作!!

 

—内容紹介を引く…

 直木賞候補作、高校生直木賞受賞作『くちなし』から4年……

 私たちは一人じゃない。これからもずっと、ずっと愛するものの喪失と再生を描く、感動の物語

 幸せな恋愛、結婚だった。これからも幸せな出産、子育てが続く……はずだった。順風満帆に「普通」の幸福を謳歌していた森崎青子に訪れた思いがけない転機……娘の死から、彼女の人生は暗転した。離婚、職場での理不尽、「普通」からはみ出した者への周囲の無理解。「再生」を期し、もがけばもがくほど、亡くした者への愛は溢れ、「普通」は遠ざかり……。(表題作「新しい星」)

 目次:新しい星/海のかけら/蝶々ふわり/温まるロボット/サタデイ・ドライブ

/月がふたつ/ひとやすみ/ぼくの銀河

 美しく、静謐に佇む物語

 気鋭が放つ、新たな代表作…

 

 こういう物語を読んだあとで困るのは、次に何を読もうかとしばらく呆然としてしまうことなのだ。ミステリ専門でもないので、普通小説も読むし何でもござれはいつものことなのだが。まさか直後に“殺人事件”でもあるまいに、と。読者泣かせでもある。しかし、傑作!!

 ★★★★★