再読。実は何度読んでも面白い東野圭吾作品の中でも上位に来るかも。読むたびに新しい発見がある、好きなシリーズ。

 

No.078 2023.7.1(土)

ラプラスの魔女/東野圭吾/角川書店/2015.5.15 第1刷 1680+5%

2015.5.20購入

 例によって内容を全く忘れていて十分楽しめたので、それはそれでとても良かった……のだがやはり自分の中では少し微妙だ。何しろストーリーどころか登場人物設定から何から何まで〈全く覚えていない〉のだ。これは、もしかして「本を読む目的がない」?

 まあいいとして。

 

 この間、作家生活100作品目で「魔女と過ごした七日間」を読んで、前に遡り出した。未読積ん読状態だった「魔力の胎動」と本書だが、この三作品を通して読むと東野圭吾という天才作家がこのシリーズの中で「人間の未来は予見していいものではない」と暗に囁いているように取れた。科学者の目を持つ作家としての面目躍如なのかも知れないが。人類はどこへ行こうとしているのか、本当は見当がついているような……。

 本書は「作家デビュー30年、80作目」。節目で出てくる〈ラプラス〉だ。

 

 主人公はもちろん「ラブラス」(本文中で説明されているがほとんど理解していると思っているだけの理解力)の二人の若者。

 序章で語られる羽原円華が母親と北海道の母親の郷里で遭遇した竜巻。そこに巻き込まれた円華の幼い頃が語られる。急激に起きた異常気象。竜巻の被害で命を奪われた母。円華がどうして「ラプラスの魔女」になったのか……。

 

 もう一人は、姉の「硫化水素を使った自殺」の巻き込まれ被害者で弟の甘粕謙人。

 謙人は自室が三階にあり二階で硫化水素を発生させた姉・萌絵と同じ階にいた母の由佳子は中毒死したものの、彼は意識不明の状態で発見される。しかし、彼は実は円華たちが一家で北海道へ行こうとしていた時に父の病院に運び込まれていて、手術の予定が入っていた植物状態の少年だった……。

 

 物語は当初、硫化水素事故と見られていた温泉地での中毒死が、実はある一定の条件下で「発生すると予測できる時」に起こった事故死だった。それは犯行を立証することが非常に困難な〈事故〉だったのだ。

 事故死の原因解明を依頼された泰鵬大学地球化学教授の青江修介。

 円華のボディーガードの元警察官・武尾徹。麻布北警察署刑事・中岡祐二。

 天才映画監督で謙人の父親・甘粕才生。脳科学者羽原全太朗博士は円華の父で脳神経細胞再生の第一人者。秘書は桐宮怜。

 映画プロデューサーの夫を謙人の誘いに乗り硫化水素死させた妻の千佐都。

 錯綜する事件の真相を追う猟犬たちを尻目に、円華の謙人を探す旅が重ねて描かれるのは、父・才生への復讐を図る謙人を阻止しようとする〈科学的予測〉の対決だった。

 

 この物語を読んで思うのは、地球上で起こることを本当に予測出来るとしたらそれは国家財産になるのだろうな、という体が震えるような恐怖感だ。

 竜巻一つに関しても現在は不確定要素が邪魔をして十分な予見はできないらしい。気象状況が予測出来たら被害はもっと減るだろうしそれはもしかしたら〈国家の武器〉になるかも知れない。それは恐ろし過ぎて想像したくない。

 

—内容紹介を引く……

 円華という若い女性のボディーガードを依頼された元警官の武尾は、行動を共にするにつれ彼女には不思議な《力》が備わっているのではと、疑いはじめる。

 同じ頃、遠く離れた2つの温泉地で硫化水素による死亡事故が起きていた。検証に赴いた地球化学の研究者・青江は、双方の現場で謎の娘・円華を目撃する……。

 価値観をくつがえされる衝撃。物語に翻弄される興奮。

 作家デビュー30年、80作目の到達点。

 

「これまでの私の小説をぶっ壊してみたかった。そしたらこんな作品ができました。……東野圭吾」

 彼女は計算して奇跡を起こす。東野圭吾が小説の常識をくつがえして挑んだ、空想科学ミステリ。

 

 これ本当に〈空想科学ミステリ〉なのだろうか?まさか実際に予測の科学が進んでいたりして……。

 ★★★★★