No.077 2023.6.26(月)

魔力の胎動/東野圭吾/角川書店/2018.3.23 第1刷 1500+8%

 いつ買ったのこれ、2018年?ふ〜ん。

 ではないよな、積ん読にも程があるだろ、今は2023年だぞ? 生まれた赤ちゃんも保育園じゃベテランの年中さんだよな。

 というような本がまだそこらにゴロゴロしているのでどうしたもんかなと眺めている。

 

 大ヒットした『ラプラスの魔女』(2015年、角川書店)の続編ではなく“前日譚”が本書。

 章ごとに出来事が出現するいわば連作短編のような形式で「第一章」から価値観をひっくり返すような(とはいえまあそんなこったろうなという伏線は最初からある)「第五章」まで続く物語は、狂言回しが鍼灸師の“ナユタ”(この名前の由来も語られるがほとんど「ふ〜ん」となってしまう文系の頭)で、各章にゲスト出演するそれぞれの相談者に、絶対にこの登場は取ってつけたような、と思うよな、の羽原円華。年齢不詳のようだが高校生らしき記述も。

 その円華が空気をヨミ、引退を囁かれている大ベテランスキージャンパーの悩みを取り去ろうとする……「第一章 あおの風に向かって飛べ」。

 「第二章 この手で魔球を」……実に妙な展開でナックルボーラーの相棒キャッチャーの代わりの新人の自信を回復させようとする円華が選んだ手は演技だった?

 「第三章 その流れの行方は」……街でばったりあった高校時代のナユタの同級生が打ち明ける元担任の苦悩。川の流れは……。

 「第四章 どの道で迷っていようとも」……ナユタの患者(?)、盲目のピアニストで作曲家のパートナーが山で亡くなる。ナユタが中学生時代に出演した映画の印象からナユタも?いろんな意味で自分が持っている資質をついに自ら認めることになる。

 ここまでがナユタが狂言回しの円華の物語。読んでいて少し不安になるほど緊張感がピークになる本章は、もしかしたら独立した長編のバックグラウンドになるのか。不安定で先が見えない緊張感。もしくは遥か高みに張られているロープをバックアップを何も持たずに渡ろうとする絶望感か。結局、作者はこの不幸な緊迫を訴えたかったのだろうか。その辺りの意図がよく分からなかった。どう読めばいいのか、分からないと言ってもいいかも知れない。

 「第五章 魔力の胎動」……本章が表題になっているのは、この章がまさしく『ラプラスの魔女』の前日譚になるからだろう。『ラプラスの魔女』で重要なキャラクターの地球科学専門の泰鵬大学青江教授が登場し、硫化水素による中毒事故の解明にあたる。両親と子供が犠牲になった冬の雪原での事故は、青江の調査でまったく別の顔を持つことが解明される。不思議な味わいの物語。円華は不在。

 

 というように、読んでみて感じたのは「ナユタの過去」と「ナユタの愛」が主題なのか、だった。四つの事象を解決する円華の活躍を描いた作品であることは間違いない。しかし、隠された主題は「ナユタ」だった。大どんでん返し、かも。

 

—内容紹介を引く……

自然現象を見事に言い当てる、彼女の不思議な“力"はいったい何なのか……。彼女によって、悩める人たちが救われて行く……。東野圭吾が価値観を覆した衝撃のミステリ『ラプラスの魔女』の前日譚。

 

 出版社の紹介もかなり苦心の成果。内容の触れることは出来ずかと言って衝撃的な惹句を使うわけにもいかずの編集者の汗だ。

 それにしても、東野圭吾の引き出しはいくつあるのだろう。ちょっと「脳神経外科」で解明してくれんもんか。円華とお父上に。

 こうなったら「ラプラスの魔女」は再読しないとならない、だろうな。

 ★★★★1/2