バラバラにアップしていた「中野のお父さん」シリーズは、今年第4弾が発売されている。本書が第2弾。肩の凝らない謎解きが楽しい。時折「人殺しの出ない物語」が無性に読みたくなる。そんな時はやはり北村薫さんが楽しい。

 

No.077 2019.6.17(月)

中野のお父さんは謎を解くか/北村薫/文藝春秋/2019.3.25 第1刷 1550+8%

 日常の謎も文豪の謎もコタツ探偵が名推理!父と娘の名探偵コンビ日常と本の謎に挑む!お父さんの推理が冴える8篇!『中野のお父さん』に続くシリーズ第2弾。

 「日常の謎も文豪の謎もコタツ探偵が名推理!」と帯に謳われている。

 出版社に勤める美希には、定年退職したもと国語教師の父がいる。コタツ探偵とは、もちろんその、中野に住むお父さんのことだ。

 8編の連作短編集。

 

ザッと内容を。

縦か横か……美希の話を掘り炬燵にあたりつつ聞き、当て逃げの犯人を言い当てる。

水源地はどこか……松本清張の盗作疑惑と荒正人の思い。個人的に思い入れのある中村眞一郎さんや福永武彦さんの名前も出てきて「おや?」と。

ガスコン兵はどこから来たか……太宰治の『春の盗賊』に出てくる《ガスコン兵》という謎の言葉の起源を探る。

パスは通ったのか……作家先生が古本屋で買ったブルーレイ。だが付いているはずの特典映像に、どうしてもたどり着けない。

キュウリは冷静だったか……病床の夫がつぶやいた。「洋さんは、キュウリだな」だが、回復してもその意味を語ろうとしない。

100万回生きたねこ』は絶望の書か……編集者が集う飲み会で、好きな絵本の話になった。美希が『100万回生きたねこ』を出すと、出会ったばかりの若手編集者の言った「僕は、あれは……絶望の書だと思うな」と思った娘にコタツ探偵が言ったのは「奇跡の巡り合いに、百万一回はいらない」

火鉢は飛び越えられたのか……鏡花が秋声を殴った事件。ヒントは『時の娘』。

菊池寛はアメリカなのか……原島先生が菊池寛はアメリカかと言ったそのわけは?

 

 本にまつわる謎物語なのだが、先人の教訓もちらほらと。

 それにしても、中野のお父さんは、絶対北村さんだろうと思うのだが、どうだろうか?

 

—内容紹介を引く……

 運動神経抜群の編集者・田川美希の毎日は、本や小説にまつわる謎に見舞われ忙しい。松本清張の「封印」作品の真実、太宰治作品中の意味不明な言葉、泉鏡花はなぜ徳田秋声を殴ったのか…そんな時は実家に行き、高校教師にして「本の名探偵」・お父さんの知恵を借りれば親孝行にもなる!?愛されシリーズ第二弾。

 

 今更ながらだが、主人公たちを。

田川美希。20代後半で文宝出版編集者。大学ではバスケットボール部のレギュラーでバスケ協会公認コーチの資格も持っている。

表題にある「中野のお父さん」はその美希の父で名前はない。58歳の高校の国語教諭。ヒョイと娘の投げかける文学系の謎を解く。安楽椅子の探偵。

 物語は、この娘の疑問・質問に快刀乱麻を断つのがお父さん。ミステリの基本に乗っ取り謎の提示から謎解きまで一息でなすお父さんの知識に読んでいると呆然としてしまう。この父と娘の関係は、北村薫のデビュー作から続いた「空飛ぶ馬」のスタイルだ。文学部の大学生〈私〉と、噺家・春桜亭円紫(しゅんおうていえんし)のスタイル。それがジーンと心地よいのだ。

 ★★★★★