No.142 2021.11.7(日)

ボーダーライト/今野敏/小学館/2021.10.25 第1刷 1700+10%

 このフレーズがとても好きで、なんとはなしに口の端に上ったりする。意味はほとんど不明なのだが、本当に〈なんとなく〉。

 

—エンタメ小説界を牽引する気鋭作家、今野敏が放つ新感覚警察小説!!—

 

 シリーズ最新作は、何故か急に増加し始めた少年犯罪の原因を探って対処しろ、と係長に厳命された神奈川県警少年捜査係の「マイペース」高尾が探って行くとインディーズの人気音楽グループの存在が浮かび上がる。

 オズヌと高尾の活躍する本シリーズは、鋭い現代風刺を込め、少年達に「自分たちでこの時代を変える方法を考えろ」と伝えているようだ。

 その意味でも、今野敏と言う作家の「主張」を強く表現しているシリーズでもある。

 警察小説と伝奇小説の融合した事で、その考えを直接表現出来るのかも知れない。

 伝説の修験道の開祖・役小角を中心に据える事により、尚更「オズヌの言葉」として強い意思表示をすることが可能なようになったのか。

 

 

—内容紹介を引く……

 その少女の歌を、聴いてはいけない……。なぜか神奈川県内で薬物売買や売春などの少年犯罪が急増しはじめた。県警少年捜査課の高尾勇と部下の丸木正太が一連の事件を洗い始めると、彼らは“普通の高校生”で、いずれも人気バンド「スカG」のボーカル「ミサキ」の信奉者だった。果たして、彼女は事件に関係しているのか?

 一方、高尾のよく知る高校生・赤岩猛雄が薬物売買の疑いで逮捕されようとしていた。彼は元暴走族リーダーだったが、かつての仲間が犯罪に手を染めるのを阻止したという。高尾は、修験道の開祖役小角の呪術力を操るという謎の高校生・賀茂晶の協力を得て、事件の背後に潜む黒幕の正体をあぶり出そうとするが……!?

 

 半村良が傑作「妖星伝」で【この星は命を喰い合う星だ】と看過したように、今野敏は【犯罪で国を変える事は出来ない】と伝えているのだ、迷い子の少年達に。

 誰に言われなくても、現在のこの日本という国は歪だ。しかし、それは本書で幾度も高尾が述べるように「革命を企図した集団もいた」時代から、なんら変わっていないのか。それとも、当時の若者たちの闘争が自然に【内部崩壊】へと突っ走り、その残滓が現在の若者たちを縛っているのか。

 エンターテインメントに名前を借りた作家の心情が突き刺さる一冊だ。そうか、体制を変えようとするのは、いつも「若者たち」のバイタリティとエネルギーの発露なのか。

 ★★★★1/2