No.141 2021.11.4(木)

さよならの向こう側/清水晴木/マイクロマガジン社/2021.6.26 第1刷 1500+10%

 初読みの作家さんなのだけと、結構活躍されているようで、このような優れた作家がドンドンでている現状は、とても愉快なことかも知れない。作家が多くて、兼業でも食べていけないような世界は、全くの文化的後進国といってもいいくらいなので、しっかり国がサポートするのが重要だろう。

 本書の主題は「急死したあと何故か〈24時間だけ〉この世(?)に留まり、最後に会いたい人に会うことを許された5人(?)が決断し最後の扉を開けて去っていくまでを“のんびりと”描いている。

 

……「あなたが、最後に会いたい人は誰ですか?」……

 

 最初に言っておくが、傑作だ。静かに流れる時間=死者の時間が、何故かたまらなくゆっくりとして目の前に現れる。

 それは、既に取り返しのつかない事態、つまり〈思いがけず〉死んでしまった事への衝撃が本人に伝わるまでの時間なのだが。何しろ、残りは一日だけ。しかし〈案内人〉は、ゆっくり考えさせている。それが、たとえ〈案内人〉の意図するものであっても…。

 

 Heroes/放蕩息子/わがままなあなた/サヨナラの向う側/長い間

 この5篇の物語の中で生きているものが、自分の死を知らない人に限りという厳しい条件の中で決断して扉を開ける。

 いずれも涙とともに読み終える物語なのだが、最後の一篇での種明かしとも取れる構成は実に沁みてくる。ガッツンと来るのでは無く、じわじわと身体中に染み渡るような、感動なのだ。

 

 Heroes/中学の理科教師の彩子の最後に会いたい人は、会って抱きしめて謝りたい……。

放蕩息子/漆器職人の息子の山脇は、職人が嫌で富山を飛び出し放蕩の挙句死に、何故か〈案内人〉の誘導で飛び出したままの実家へと向かって……。

 わがままなあなた/猫の幸太郎はご主人と喧嘩して飛び出して事故で死を迎え、最後にご主人にお別れを告げるために……。

 サヨナラの向う側/美咲は二人組のバンドの歌手。コンサートを前に相方に何も言えずに死んでしまった。そして従姉妹のフリをして相方に会うのだが……。

 長い間/それぞれを案内して次の扉まで送った〈案内人〉。何故彼が〈案内人〉として待ち続けることになったのか。それは死後、ただ一人の人に会いたいと願い、しかし叶わずその時の案内人と話し合いながら遠の時間を待っていたのだが、新しい〈案内人〉にならないかと受け渡され、それからも待ちに待って40年も待って、ようやく……。

 「待つのは、嫌いじゃないですから」と今日も「さよならの向う側」に来た人に、ポケットから、案内人の報酬の缶コーヒーを渡す。その甘くて千葉限定の缶コーヒーの由来まで明らかになっていく。

 

—内容紹介を引く……

「あなたが、最後に会いたい人は誰ですか?」様々な人たちの最後の再会を描いた5つのエピソードで紡がれる純度100%の感動小説。

 人は亡くなった時、最後に一日だけ現世に戻って会いたい人に会える時間が与えられる。ただし、その中で会えるのは、あなたが死んだことをまだ知らない人だけ。これは、五人が織りなす、最後の再会の物語。

目次はHeroes/放蕩息子/わがままなあなた/サヨナラの向う側/長い間

 

 スラスラ読めるのは、内容に何の衒いもわざとらしさもなく、ひたすら〈愛〉を描いているからなのだろう。この淡々としてそれでいてジワっと沁みてくる文章の魅力はとても貧弱な語彙では語るものではない。実際に読んでみて沁みてもらいたい。そんな物語がある。何度でも言う。傑作。

 

 で、肝心の自分はもしこの順番が来て〈案内人〉がしこたま甘い缶コーヒー片手に現れたら、さて最後に会いたいのは、誰なのだろうか……。

 ★★★★★