No.136 2021.10.23(土)

トリカゴ/辻堂ゆめ/東京創元社/2021.9.30 第1刷 1800+10%

 力作登場。この作家の著作を追っかけている訳ではないので比較しようもないが。陳腐な感想しか思い浮かばず自分にガッカリするが、読んでいる間ずっと緊張して息を詰めて文字を、ストーリーを取りこんでいたようで、読み終えてホッとしたとたんに全身から力が抜けてグッタリしてしまい、どれほど力入れていたんだよ、と自分に突っ込んでしまう。

 物語は、表に出た「傷害事件=殺人未遂事件」捜査。被疑者として確保された若い女が所轄で取り調べを受けた時に発覚する重大事象がバックボーンを形作り、所轄の強行犯の巡査部長は表の事件と裏の事件を追う。それは、警察では自白したが検察送致で自白を撤回し不起訴になってしまったことが前提になる。そして、衝撃の事実の告白……「無戸籍」である事実だった。

 

 題名の「トリカゴ」。冒頭にその事件が述べられその事件を発端に警察官を目指し刑事になった蒲田署で強行犯の巡査部長を務める森垣里穂子は、出産・育児休暇明けで当番を務めていた。その夜、管轄でナイフを使用した傷害事件が発生。臨場してみると男が刃物で刺されていた。幸い命に別状ないものの容疑者は不明。ところが、現場に若い女が現れ自分が痴情のもつれから刺したと自供とも取れる供述をする。

 単純な傷害事件が、容疑者の無戸籍であることやその後否認に転じた事で混沌とし始める。

 里穂子は、通常の捜査に加えて、「無戸籍」者たちの自称“ユートピア”をも抱え込んでしまう。戸籍の無い人間たちをどうにか出来ないか、と。

 警視庁の特別継続捜査官も加わったことで、24年前の「トリカゴ」事件の真相が暴かれようとするのだった。

 

 物語の本体は、事件捜査ではなく「無戸籍者」の人間復帰への道だろうか。普通の生活を送れるようにするにはどうしたらいいのだろうか、と。

 

—内容紹介を引く……

 蒲田署刑事課強行犯捜査係の森垣里穂子は、殺人未遂事件の捜査中に無戸籍者が隠れ住むコミュニティを発見する。そのコミュニティ、通称“ユートピア”のリーダーはリョウ、事件の容疑者ハナは彼の妹だったのだ。無戸籍者を取り巻く状況を知った里穂子は、捜査によって彼らが唯一安心して暮らせる場所を壞してしまったのではないかと苦悩する。だが、かつて日本中を震撼させた“鳥籠事件”との共通点に気づき…。辻堂ミステリの到達点、著者最高の力作!…

 

 ニュースでも報道されることのあまり無い“戸籍のない者”たちの存在。一般の人たちはあまり気にもせず暮らして行ける。それは、日本特有の“戸籍制度”が『自分を証明してくれる』からだろう。両親、祖父母、と連綿と続く戸籍に記された『自分の存在証明』。それが、無い。当然の権利が消えてしまっているのだ。親が子どもの誕生を役所に届けずに、子どもは生まれてから一度も教育も受けていない……。

 ミステリとしての存在感が、ラストに向かって突っ込んでいくのは凄い。まさに、辻堂ゆめミステリの到達点かも知れない。傑作。

 ★★★★1/2