No.107 2022.9.3(土)
風の港/村山早紀/徳間書店/2022.3.31 第1刷 1600+10%
静かに余韻を噛み締める。静寂の中にある各々の葛藤。悩み迷い気付く進むべき道すじ。光に導かれるように「空港」に足を運びそして、新たな目標を目指して飛び立つ。
風の港はそんな人々の夢と希望と、一抹の不安、挫折、傷心を飲み込み静かに送り出す。
本作品の主人公は「風の港」。
大きく手を拡げ何者をも迎え入れる。そして…光輝く翼に乗せ空へ。人生の舞台転換のように。
こういう物語が好きなのは自分を忘れそうになったときに、ふと横を見るとそこに静かに寄り添いたっているからかも知れない。
迷い道に入り込んでしまった時の灯台と言えば失礼か。
第一章からエピローグまで、ただただ頁を捲る手を止められずひたすら読み込んでいく。
登場人物達の人生に深く同調しつつ、笑い泣き、楽しむ。
このような静かな再生の物語を紡ぎだす村上早紀がいとおしい。いつまでも心に残る物語が、いとおしい。
羽田空港が好きだった子供の頃。まだ東京が十分田舎の一部分として普通に存在していた頃。羽田空港に父のスバル360に乗せられYS11のかね見物に。東京タワーが完成前、新幹線はオリンピックの時、そんな時代だったけど、幸せだった。
羽田空港では、山高帽子に着物袴姿の亡き祖父に買って貰ったYS11のオモチャ片手にうろつき、祖父と二人で迷子になったこともセピア色の想い出に確かな存在感を持って残る。
空港はそんないろんな思い出に満ちたワンダーランドなのかも知れない。
いつから飛行機に乗ることを拒否し始めたのかハッキリしない。海外からの帰国便でのエアポケットの恐怖なのか。酸素マスクが一斉に飛び出してきた時の恐怖は、忘れることは出来ない。
他国に住む家族が来日した時の迎え。帰る時のお別れ。
いつも空港は感情が爆発する場所になっている。それがコロナでなくなり気の抜けた思いで過ごしていたり。
しかし飛行機に用事がなくても一年に一度は空港に行く。羽田空港だったり、用事で出掛けた先の地方空港だったり。
空へ駆け上がる航空機の煌めきを眺めながら、あの先の空の向こうに飛びたい、そんな思いにとらわれながら…。
……【村山早紀さんからのコメント】
コロナ以前は、たまに空を飛ぶことがわたしの日常で、空港で過ごす時間もまた日常でした。
滞在の時間を長めにとって、カフェで版元さんと打ち合わせしたり、大きな窓から空や飛行機を見ながらラウンジでのんびり仕事をしたり、本を読んだりしたものです。
ある日、羽田空港のレストランで、ひとり昼食をとりながら、ふと、行き交うひとびとの足音や声に、耳を澄ませたことがありました。
みんな旅の途中なんだな。
それぞれの旅の。そして人生の。
ひとときここで翼を休めて、またそれぞれに飛び立つんだな……。
そう思うと、みなが同じ大きな船に乗り合わせた旅人のように思えて、愛しくなりました。
その時の気持ちが核になり、『風の港』は生まれました。……
しみるなあ!!
—概要を引く……
第一話 旅立ちの白い翼
夢破れて、故郷の長崎へ戻る亮二は荷物を
まとめて空港へ。似顔絵画家の老紳士と出会い思わぬ言葉をかけられる。
第二話 それぞれの空
「本は魔法でできているの」小さな書店を
営んでいた祖母の言葉。いま空港の書店で
働く夢芽子が出会う、ちょっと不思議な物語。
第三話 夜間飛行
恵と眞優梨は33年ぶりに空港で再会する。
少女の日のすれ違いと切ない思い出を
名香の香りに乗せて。
第四話 花を撒く魔女
老いた奇術師幸子は、長い旅の果て、
故国の空港に降り立つ。
自分の人生が終わりに近いことに気づき、来し方を振り返る。
—内容紹介を引く……
夢破れて、故郷の長崎へ戻る亮二は荷物をまとめて空港へ。似顔絵画家の老紳士と出会い、思わぬ言葉をかけられる。(『旅立ちの白い翼』)。「本は魔法でできているの」小さな書店を営んでいた祖母の言葉。いま空港の書店で働く夢芽子が出会う、ちょっと不思議な物語。(『それぞれの空』)。恵と眞優梨は三十三年ぶりに空港で再会する。少女の日のすれ違いと切ない思い出を名香の香りに乗せて。(『夜間飛行』)。老いた奇術師幸子は、長い旅の果て、故国の空港に降り立つ。自分の人生が終わりに近いことに気づき、来し方を振り返る。(『花を撒く魔女』)。
この物語を全ての悩み迷い道に迷う人々に読まれることを切に願うばかりだ。
飛行機観に行くか。
★★★★★