No.134 2021.10.17(日)

隠れの子 東京バンドワゴン零/小路幸也/集英社文庫/2021.7.20〜8.17 第2刷 680+10%

 …「東京バンドワゴン」シリーズのルーツとなる傑作時代長編小説…。

 う〜ん、その辺はちょっと無理筋って気もしないでは無いけどなあ。名前がたしかに「堀田」だけども。どうなんだろ。確かに勘一の嫁さんの幸さんは、亡くなった後も堀田家に“残って”家族を見守ってるし、孫の紺やひ孫のかんなちゃんは、幸と対話出来るようだし…。

 

 それはそうと(笑)。

 作者初の時代小説で、「隠れ」という「エスパー」達の物語と来れば、どうしても期待値マックスになる。何しろ、超能力や異能者が活躍する時代小説と言えば、山田風太郎の切り開いた忍法帖シリーズを引くまでもなく、人気のジャンルなのだ。

 

 それをミステリー仕立てにした上に、更に解説の大矢さんが看破した「家族の成り立ち=家族小説」に仕上げてしまった小路幸也の豪腕に思わず唸ってしまうのだ。

 何しろ、主人公とも言うべき「隠れの子」の〈おるう〉、コンビを組むことになる八丁堀定町廻り同心の〈堀田州次郎〉にしても、血の繋がりの無い養子で家督を継いだし、おるうに至っては生まれ家族の記憶させあまり無い。おるうが暮らす植木屋の神楽屋に来てやっと心の家族を見いだしたのだし。

 物語は、ザックリ言うと「隠れ」の白と黒。陽と陰の闘いを描いたものなのだが、シリーズの入り口的な印象が強い。この後、州次郎とおるうの「闇隠れ」との闘いを暗示させるラストであるし、それを期待しておきたい終わり方であった。どうなんだろ……。

 

—内容紹介を引く……

 江戸で子守をして暮らしている少女・るうと同心の堀田州次郎は、ともに「隠れ」と呼ばれる力を持っていた。東京バンドワゴンの原点。

 江戸北町奉行所定廻り同心の堀田州次郎と、植木屋を営む神楽屋で子守をしながら暮らしている少女・るうは、ともに「隠れ」と呼ばれる力を持つ者だった。州次郎はたぐいまれな嗅覚を、るうは隠れの能力を消す力を…。州次郎の養父を殺した者を探すべく、ふたりは江戸中を駆け巡る。それはまた隠れが平穏に暮らすための闘いだった。「東京バンドワゴン」シリーズのルーツとなる傑作時代長編小説……。

 

 最初に戻ってしまうが、「東京バンドワゴン」は別にして、完全な独立したストーリーの小説として読むのが正解。いっさい〈堀田勘一一家〉にはこの際関係ないと割り切って、だ。

 結構読みながら気になってしまい、勘一一家との共通項を必死になって探そうとしていたりすので、本来持っている「盗人に加担した異能者集団〈闇隠れ〉と、〈隠れの能力を消し去ることのできる力を持つ〉おるう+〈ひなたの隠れ〉州次郎コンビの〈隠れ対決〉にしっかり照準を合わせて楽しめばいいのだろう。小説の楽しみ方は、常に変わらず【余計なことはかんがえずに没入する】ことなのだから。その意味で、若干この惹句「東京バンドワゴン」シリーズのルーツとなる傑作時代長編小説…は、目的をぼやけさせているような印象があるのだ。その点で、とても残念。余計な意匠を取っ払って読むのが、楽しい一冊なのだが。