No.116 2021.9.15(水)

残響 警視庁監察ファイル/伊兼源太郎/実業之日本社/2021.8.10 第1刷 1700+10%

 シリーズ最終巻になるのだろうか。「密告はうたう」「ブラックリスト」と2作で語られてきた警察の警察=監察が守るべきものは何かを問う物語は、すべてを統括する高級警察官僚が、実は警視副総監の存在だと暴く。

 佐良と皆口のコンビに係長の須賀、監察官の“能面”の能馬が佐良に引っ張られるように、ほんのわずかだが〈感情〉を表す。真相を暴くのは、監察官・能馬に率いられた監察軍団だ。刑事警察でも公安警察でもなく、ひたすら警察の責任を果たすべく感情を押し殺し、道を逸れた〈正義感溢れる〉警察官を法の道に引き戻すのだ。

 

—正義感はいらない。責任感が警察官を動かす。—

 

 法律で裁き切れない犯罪者を裁く「互助会」の目的は、警察権力への集中的な犯罪抑止力を持たせ、国民一人一人を監視し、犯罪の芽を素早く摘み取る法律「国民生活向上法」の制定にあった。その法により警察は全ての権力の〈暴力装置〉になってします。

 現在のSNSで流布されるデマや憶測に、証拠も何もなくただ漫然と「あいつは犯罪者じゃないの?」といった無責任は言葉により、ネット自警団=ネット警察が無実のものを吊し上げ、そして社会生活からも放逐してしまうような過激な風潮がさらに助長されるのだ。

 佐良たちが追うのは、現行の法の元では裁き切れない、そして裁いても量刑が犯罪の重要さに比較してあまりにも軽すぎると〈感じ、不満を抱き、自分の法で裁く〉ことを目的とした、警察官の組織〈互助会〉。“真っ直ぐすぎる正義感が歪んだ行動に走らせている”組織の摘発は、ついに最後の砦までたどり着くのだ。

 

 立ち塞がるのは、実行犯で特別な訓練を受けた潜入公安警察官・富樫。

 彼は、若い頃に動員され臨場することになったのが“ダブルスパイ”と目された家族3人と飼い犬の殺害現場だった。家の外にいてされ聞こえる断末魔の絶叫が耳にこびりつき離れない。指揮官の管理官の命令で、助けに入ることも出来ず、全てが終わった後に家の中に入ると、全員殺害されていた。

 もし悲鳴が聞こえた時に飛び込めば、幼い子供の命は助けられたかも知れない。そして、その家族こそ冨樫が幼い頃に友情を深めて韓国人のミョン兄と呼んだ人の一家だった。

 冨樫の個人的な復讐劇も表面位現れる。その標的は、警視副総監の波多野だった。波多野こそが一家惨殺事件の時の管理官で、「人間は使い捨ての駒だ」と放言した男だった。

自 分の出世のために、警官を駒として使い捨てにしてきた波多野を殺害する目的の富樫。監察の意地と警察官の誇りを賭けて、富樫を阻止するために佐良と皆口は立ち向かっていく。

 

—内容紹介を引く……

 未解決の刑事殺人事件の真相は!? 最大の戦いが始まり、すべての謎が明かされる……

 警視庁職員四万人の不正を取り締まる部署、人事一課監察係に所属する佐良。

 庁内に存在するという「互助会」の全容を掴むため、同僚の皆口菜子、毛利とともに、本格的な監察を始めていた。「互助会」の連中は法律では罰せられない悪党たちへの私刑を加えているという。その矢先、監察トップの警務部長が狙われた。……これは警察内部の犯行か、犯罪組織による警察への報復なのか。また、佐良と皆口の心に大きな傷を与えた、同僚刑事・斎藤殺害事件に関連する大きな手がかりが……

「警視庁監察ファイル」シリーズ、最大の戦いと謎の結末は!?

 

 人間は、どこかで「私刑容認」の思いがある。現在の法律で裁けないのなら、誰かがその犯人を「私刑にかける」事に喝采を送るような……。

 犯罪を取り締まるのは「警察官」なのだ。

 エピローグを読んで泣け!!

 

 久々に熱き魂の警官物語を読んだ。

 ★★★★★