娘が嫁いで老父と老母(内緒)の二人暮らしにも慣れてしまった。6年目ともなるといないことが通常運転になってしまい、食卓の椅子がぽっかり空いていることの奇妙さにも……。それでも妻は今年もお雛様を出すので朝から大忙し。嫁ぎ先では出さないらしいから持っていけばいいのだが……。

そんなことを雪景色の中で呆然と考えてしまうのも、私たちが歳をとったということなんだろう。妻も今年65歳になる。年金事務所への予約もしてもう本当に老夫婦二人きりになるようだ。……日常の呟きだが。

 

No.114 2021.9.11(土)

密告はうたう/伊兼源太郎/実業之日本社/2017.3.25 第1刷 1700+10%

 監察官・佐良シリーズ第1作。

 部下・斎藤の殉職により捜査一課から何故か、警察官の不祥事の捜査(?)する監察室に異動して一年。佐良に新しく下された任務は、斎藤の婚約者で当時は同じチームで斎藤の最期に勤務していた皆口菜子の「行確」だった。佐良の指揮下、ある捜査の最中の死亡事故。三人と当時の上司しか把握していなかった行動が情報漏れの疑いで斎藤が殉職したのか。

 佐良の相棒になった元公安捜査官の須賀、警務部人事一課の監察官・能面の能馬は、佐良に何をさせようとしているのか。

 皆口の行確により浮かび上がってくる、迷宮入りしそうな目白駅での殺人事件の真相は、警察官のある行動が元で迷宮に入り込んでしまったのだった…。

 この作家の著作はあまり読んでいない。伏線を張り巡らした純然たる警察小説は、緊迫感が溢れ一気読みへと誘う。優れた刑事達の意地と矜持に満ちた恐るべきノンストップ・ミステリーとなっている。

 倒れるときは前のめり。真の警察官は守るべき真実は死を睹しても守るのだ。

 主人公・佐良の造形、親友の弁護士・虎島の剽軽、上司の能馬の冷たい熱の感じられない姿、そして須賀の「お前を信用していない」と言う態度がストーリーを一段と緊張感の高い物語にしている。読み始めたら最後まで。傑作。

 

—内容紹介を引く……

 人事一課監察係の佐良が命じられたのは、元同僚・皆口菜子の監察だったー緻密な伏線と人間ドラマが胸を打つ!静かで熱い警察小説。……

 シリーズキャストの面々。一癖も二癖もある「刑事たち」の勢揃いかも。

佐良/警視庁警務部人事一課監察係主任。須賀/同監察係長。能馬/同監察官。皆口菜子/警視庁交通部府中運転免許試験場巡査部長。斎藤/元警視庁刑事部捜査一課刑事

宇田/高井戸署刑事課主任

虎島/弁護士

 

 個人的には、この弁護士の虎島(トラだからまさか縞の意味でトラ縞じゃないよな?)が非常に気に入っている。シリーズキャラの中でも一際秀逸かもしれない。

 物語は、本当にどんでん返しの連続で、刑事の習性をもっとも捉えている作品かも知れない。なぜ、いままで全く手に触れてもいないのか。本読みとしての少々反省せねばなるまい。

 ★★★★★