No.151 2021.11.28(日)
六人の嘘つきな大学生/浅倉秋成/角川書店/2021.3.2〜5.20 第5刷 1600+10%
一読後暫し呆然。
就職活動の最終面接に向かう六人の大学生が経験した、大震災直後の2011年の就職活動。
そこにあったのは「就職するためには、いかなる事も許されるのか」という妙な価値観の創出。
果たして、こういう形式の〈就活〉が実際にあるのかは、読んでいる者にも分からない事かも知れないが、筆者の迫力で“あるんだろうか?”が、次第に〈あるに違いない〉と何ら疑問点にも思わないようになってきてしまう激しさが文中にある。
そもそも、今の就職活動の仕方に門外漢がどうこう言っても、じゃあお前は知っているのか、こんな馬鹿なことは有る訳が無いと断じていいのか、とまで……
それはそれとして。
グループ・ディスカッションが、人事担当の一本のメールでたった一人の採用枠になるサバイバル・ディスカッションに変貌し、六人は誰を最終的内定者にするのかを、自分達で決めなければならないようになる。そこに、一枚の大封筒に入れられた6通の小封筒。各自の名前の書かれたそれには、なんとそれぞれの隠された姿が写真の形で入れられていた…。
誰が嘘つきで、誰が封筒を作った「犯人」なのか…。
絡み合う伏線と真実の合間に見え隠れする「新卒採用の偽善」への問題提起と、さらに二転三転する「犯人」。いったい本当に告発したのは誰なのか。
この作家は、2015年の「九度目の十八歳を迎えた君は」を読み非常に驚き感動した人。散りばめられた伏線が、最後には圧倒的熱量で読むものに鋭く襲いかかる。気付くのが遅れると、あまりの鋭利さに血だらけになってのたうち回る羽目に陥るので注意がいる。
今回も気付いた時には既に遅く、作者の術中にモロに嵌まってアタフタと「犯人」に引きずり回されてしまった。
たった六人、されど6分の1に終わらないのが凄いのだ。伏線の魔術師、参上、だ!!
登場するのは、本当にこの六人。他にキャストはいるのだが黒子になって見える。
波多野祥吾/立教大学経済学。語り部
九賀蒼太/慶應大学総合政策学部。「フェアに」が口癖
袴田亮/明治大学。元野球部
矢代つばさ/お茶の水女子大学。人目をひく美女
嶌衣織/早稲田大学社会学。鋭い洞察力が自己PR
森久保公彦/一橋大学。秀才
—内容紹介を引く……
ここにいる六人全員、とんでもないクズだった。
「犯人」が死んだとき、すべての動機が明かされる。成長著しいIT企業「スピラリンクス」が初めて行う新卒採用。最終選考に残った六人の就活生に与えられた課題は、一カ月後までにチームを作り上げ、ディスカッションをするというものだった。全員で内定を得るため、波多野祥吾は五人の学生と交流を深めていくが、本番直前に課題の変更が通達される。それは、「六人の中から一人の内定者を決める」こと。仲間だったはずの六人は、ひとつの席を奪い合うライバルになった。内定を賭けた議論が進む中、六通の封筒が発見される。個人名が書かれた封筒を開けると「○○は人殺し」だという告発文が入っていた。彼ら六人の嘘と罪とは。そして「犯人」の目的とは…。伏線の狙撃手・浅倉秋成が仕掛ける、究極の心理戦……。
倒叙の部分も併せ持つような、異常な興奮に包まれる文章は先へ先へと読者を促す。読み始めると、一気に次々に現れる作者の罠にどんどん取り込まれ、読み終えるまで止まることを許されない。そんな本に出会ったようだ。傑作!!
★★★★★