No.117 2021.9.16(木)

みんな蛍を殺したかった/木爾ちれん(きな ちれん)/二見書房/2021.7.20〜8.24 第2刷 1700+10%

 七瀬蛍・転校生。天涯孤独の触れ込みだが、実は妹が母を殺害し父は失踪して一人で京都へ転校する。

 心の闇は「オタクは悪」で滅ぼしたい。妹・鈴が引き籠りになりゲーム三昧の日々を過ごしていたのをある日ゲームのデータを蛍が消す。帰宅した蛍が目にしたのは、大好きな母の背中に突き立った包丁。鈴が逆上して母を殺害した。以来、蛍は包丁を使えず料理も出来なくなる。

 しかし、アニメ声の大川桜がしでかした蛍へのなりすましで、相手のキモオタをその触れない包丁で刺し殺す。それをパニックになった蛍から連絡を受けた猫井栞が身代わりになり電車に飛び込んだ。

 猫井栞は、伝説の作家の柊木沢エルの娘だが、真の作家は栞の父親だったのだ。

 五十嵐雪は、小学生の時に事故で亡くなった二卵性双生児の六花を溺愛していた母親に疎まれ続ける。そんな時に転校してきた蛍が雪の家に来るようになる。

 大川桜は、ゲームの中で生きているゲームオタクだった。ゲームの中の人物と恋仲になり現実に出会ったときに、蛍を自分の身代わりにしてしまう。しかし、相手も実は弟だった。その入れ違いが蛍と雪の人生を狂わしといった。

 

 蛍を中心とした女子高生のある一時期の偶然がもたらしたのは、オタクとばかにされていた三人の少女だった。そして、生き残ったのは、蛍…。

 

—内容紹介を引く……

 ……みんな誰かを殺したいほど羨ましい。

 美しい少女・蛍が線路に身を投じる。

 儚く散った彼女の死は後悔と悲劇を生み出していく……

 「女による女のためのR-18文学賞」優秀賞受賞者である著者が、原点に立ち返り、少女たちのこころの中に巣くう澱みを鮮烈な感性で抉り出す。

 京都の底辺高校と呼ばれる女子校に通うオタク女子三人、校内でもスクールカースト底辺の扱いを受けてきた。そんなある日、東京から息を呑むほど美しい少女・蛍が転校してきた。生物部とは名ばかりのオタク部に三人は集まり、それぞれの趣味に没頭していると、蛍が入部希望と現れ「私もね、オタクなの」と告白する。次第に友人として絆を深める四人だったが、ある日、蛍が線路に飛び込んで死んでしまう。真相がわからぬまま、やがて年月が経ち、蛍がのこした悲劇の歪みに絡みとられていく……。

 少女の心を繊細に描く名手による初のミステリ作品。……

 

 目次を引くともっと深慮遠謀が垣間見えるのだが、読んでいる者には、読了後もっとも納得のいく目次タイトルとなる。大見出しだけ見てみると。

 non title/私たちの黒歴史/non title/永遠の親友へ

 

 永遠の親友……。そんな親友がいるんだろうか。ふと過ぎ去りし日々に思いを馳せる。

 

 たった一人の転校生を軸にした人生は、2007年に始まり、2020年に全てが終わる。

 この作家の文章は硬くてぎこちない。それでいて、麻薬のようにずっと読んでいたいと思わせる存在感を持つ。不思議な文体は、今の時代の特有な文体なのだろうか。短いセンテンスを重ねて次第に輪郭をぼかして真実を浮き上がらせる。驚愕しつつ新しい才能との出会いに感謝する。傑作。

 

 著者の木爾チレン(キナチレン)さんは1987年生まれの京都府出身。才能あふれる若い作家で、大学在学中に応募した短編小説「溶けたらしぼんだ。」で、新潮社「第9回女による女のためのR・18文学賞」優秀賞を受賞。美しい少女の失恋と成長を描いた『静電気と、未夜子の無意識。』(幻冬舎)でデビューしている。

 とてつもない才能の作家がドンドン出てきて、これではのんびり老後は積んでる本を読んで、等と言うことも出来ないほど嬉しい日常だ。

 ★★★★★