No.045 2022.4.25(月)

看守の信念/城山真一/宝島社/2022.3.10 第1刷 1600+10%

 エピローグに驚愕してる。なるほどこういう形で『看守の流儀』に繋がっていったのか!!まさしく『ギミック』の見本のような傑作。

 冒頭のプロローグから仕掛けが始まる。それは男の慟哭が不穏な物語の開始を予見するかのような…。

 そして物語の主人公の身元が明らかになる時、作者の物言わぬ仕掛けの見事さに呆然と立ち竦む。

 物語は『監獄法』が明治の発布以来百年の時を経て改正された平成の改革の頃だった事に、ようやく気づかされるのだった。

 この見事なまでの配役の妙。滅多に見られない絶妙さでひたすらひれ伏すのだ。

 

 法務省処遇部指導官…火石大輔。『監獄法』を百年ぶりに改革したチームに所属。その後、実際に現場に立つために法務省から加賀刑務所の処遇部指導官に。3年間の異動もなく加賀刑務所にいたのは、木花母子を亡き兄に託され見守るためだ。

 総務課長…芦立。引きこもりの息子を置き加賀刑務所確定赴任。夫とは別居結婚だった。

 塚崎華/木花司…火石の姪。兄の一人娘で専門学校に通う。火石が面倒を見ている。そのために加賀刑務所に赴任している。母弥生の死亡を受け、火石大輔の養女となる。火石司になり義父の意思を嗣ぎ国家公務員上級試験を通り法務省刑務官になった。その後の活躍は『看守の流儀』に繋がって行く。

 木花弥生…火石の義理の姉。死んだ兄の妻。覚醒剤で服役後、金沢に戻り弁当屋で働く。しかし独立資金を詐欺の前科のある女に持ち逃げされ絶望の果てに三度覚醒剤に手を出し実の娘を刺傷させ司に生涯消えることの無い頬の傷を残し死亡。

 

 実は、こんなことは初めてなのだが各話にある物語もそれぞれものすごく驚愕するような面白さで、ページを繰る手を止めるのはほとんど不可能(自然の欲求には勝てない)なのだが、それ以上に驚天動地なのは、本書の背景になっている火石の“個人的”な物語だろう。

 それは、作者の意図を遥かに超えた読者側の反応なのか、それとも〈計算通り〉の反応なのかは定かではない。どちらでもいいが、読んだ後ではどうしても「こっちか。作家が意図してミスリードを仕掛けていたのは」と斜め四十五度から見渡してしまうのだ。

 

……悩み抜いてたどりついたのは、乗り越えるのでも、逃げるのでもなく、結局、ただ抱えて生きていくしかないという思いでした……

 

—内容紹介を引く……

 模範囚の失踪、集団食中毒事件、火の気のないところで起きた火災……刑務官たちの信念が問われる事件。

 その時、敏腕刑務官・火石に不穏な噂が……傑作『看守の流儀』に続く待望の刑務所ミステリー。

 第一話「しゃくぜん」釈放前の更生プログラムに参加した模範囚が、外出先で姿を消した。発見されるまでの「空白の30分」で何が起きたのか? 第二話「甘シャリ」刑務所内で行われた運動会の翌日、集団食中毒事件が発生。これは故意の犯行なのか。炊事係の受刑者が容疑者に浮上するが…。第三話「赤犬」古い備品保管庫で原因不明の火災が起きた。火の気もなく、人の出入りもなかったはずの密室でいったいどうして? 第四話「がて」窃盗の常習犯である受刑者の心の拠り所は、あるジャズシンガーとの文通。しかし、その女性は実在していなかった…。第五話「チンコロ」「また殺される」と書かれた匿名の投書が刑務所に届く。差出人は元受刑者か。そして、投書に隠された意味とは?骨太の人間ドラマ×驚愕の刑務所ミステリー。

 

 火石。この見慣れない苗字が全ての根源のような気がする。苗字に引きつけられ手品師の右手と同じように騙され左手が危ういことを仕掛けているのに全く気付かなかった。最後の最後まで前作の【続き】と完璧に思わされてしまった。

 見事としか言いようのない大胆不敵さだ。感服し大傑作と断言する。

 ★★★★★∞